序章 塗料の定義
塗料とは何か―その多様な姿
そもそも塗料とは何なのでしょうか。本編に入る前に、まずは塗料の定義を皆さんにお伝えしたいと思います。
塗料は、日常語としては単にペンキと呼ばれますが、実は使う人の立場や目的によって、意味する範囲が大きく異なります。古代の壁画に使われた顔料も塗料、最新の光触媒コーティングも塗料、そしてあなたの家の外壁に塗られているペンキも塗料です。
では、これほど幅広い塗料をどのように整理すればよいのでしょうか。
JIS K 5600による定義
塗料を工業製品として明確に定義しているのがJIS規格です。
これによると、「物体の表面に塗布して、薄い固体の被膜(塗膜)を形成し、保護・美観・その他の機能を付与する材料」と定義されています。この定義には、3つの重要なポイントがあります。
①液体から固体への変化
塗るときは液体状だが、乾燥・硬化して固体の膜になる
②薄い被膜の形成
アスファルト舗装やコーキング材とは異なり、薄い膜で機能を発揮する
③工業製品としての規格
成分、性能、試験方法が標準化され、品質が保証されている
この定義に該当する例
・建築用水性ペイント(アクリル、ウレタン、シリコンなど)
・自動車補修用塗料
・家具用ラッカー
・金属用防錆塗料
この定義から外れる例
・漆(天然素材であり工業規格外)
・藍染などの染料(塗膜を形成しない、素材そのものの色を変える)
・絵の具(塗膜を形成しない、乾燥後も水やうすめ液で溶ける)
つまり、JISの定義は、広義の塗料全体を指すのではなく、工業製品として流通する一般的な塗料に限定した、より厳密な定義と言えます。