【前回の記事を読む】団地の402号室から炎が噴き出していた…鎮火の後で、消防隊員が運び出した担架は「2つ」…どちらも”布“がかけられていて…

私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~

時を超えるつばめになろう

火災の発生はもう少し前の時刻だったのだ。ここまで来て、何もできなかったことに放心した。火事が起きて、「てる」と母親が巻き込まれたことだけは紛れもない事実だった。けれど出火原因はわからずじまいで、救うこともできなかった。

私は半年もかけて準備し、はるか東京から何をしに来たのだ。ひたすらに自分自身が腹立たしかった。悔しい。悔しいしかないけれど、今夜はここまでだ、帰るしかない。もう一度チャンスはあるだろうか。とにかく日常に戻って出直すことにした。

タイムリープとワープを重ね、ぼろ布のようになって家に戻ると、泥のように眠った。

一度失敗したくらいがなんだ。私には積み重ねてきたものがある。またチャレンジすればいい。

午後11時直前ではダメだ。11時には402号室の窓際に到着して中のようすを探ろう。私は出発に適した日をじりじりしながら待ち、再び飛び出した。四国のニュースをチェックしたら、その日、高松ではつばめの飛翔が確認されたそうだ。春が進んでいた。

行きのルートは前回と同じだ。中学校の屋上に到着したのは午後10時少し前。うまくいった。喜んでいる場合じゃない。早く団地に向かおう。

あたりは静かだ。前回炎の吹き出しを確認した部屋の窓まで飛んで、ホバリングしながら中をのぞく。幸い白いカーテンだけで、中のようすが見えた。左奥に玄関があり、手前には台所がある。暗くて人影はない。

右の窓も見てみよう。小さな灯りがついていた。右の壁の前に勉強机があって、デスクライトの下でこちら向き突っ伏して寝ている人影がある。横顔がまちがいなく「てる」だった。ツインテールはさらさらのショートカットに変わっている。髪の毛の間からのぞく表情にあの頃の幼さはなく、少し大人びて見えた。

パジャマ姿に青いカーディガンを羽織っている。薄暗い部屋の中にはすでに布団が敷かれていた。具合が悪くて寝ていたのに、起き出して勉強を始めたのだろうか。母親の姿がない。奥にも部屋があるようで、もう休んでしまったのかもしれない。

そのときだった。台所のほうで何かが光った。

左の窓に戻ってみると、台所のコンセント付近が燃えている。数センチに見えた炎は、古びたコンロ周りの油分に引火し、またたくまに数十センチに膨れ上がった。