澄世は自分にも言い聞かせるようにキッパリと言った。これはいよいよ、わけありの女性だな、と和彦は思った。だが、不思議と不快ではなかった。むしろ興味をそそられた。澄世のバッグからマナーモードがブルブルと鳴るのがわかった。
「ごめんなさい」
澄世はバッグを開け、携帯を出し、メールのチェックをした。ガラケーだった。和彦はまた驚いた。今時、スマホを持たないなんて、珍しい人だな。いったい幾つなんだろう? ぽかんとしている和彦に気付き、澄世が言った。
「ガラケーでびっくりした? 可笑しいかな? 私、若い頃、新聞社で役員秘書をしてて、情報に疲れたから……私、時代についていけないの。テレビも殆ど見ないわ」
秘書だったとは、なるほど言われてみれば澄世にピッタリに思えた。二人は何となく、また会う約束をした。
七月一日(土)夕方、澄世の方から誘い、二人はビルボードライブ大阪へ行った。澄世は石丸幹二が好きらしく、今日は彼のライブだった。
澄世はノースリーブの赤いドレスで現れ、和彦の意表をついた。肩から手まで、たるみのない白い腕がさらされていた。
赤を着た澄世は、華やかで若々しく、けれど色気ではなく上品さをたたえていた。二人は、ステージ正面のテーブルに案内された。
「カクテル、よく知らないのでお願いします」
「カシスオレンジなんかが飲みやすいんじゃないかな?」
「じゃぁそれで」
「カシスオレンジを二つ、それから生ハムとチーズとサラダを」
和彦がさっさと注文をした。
「貴女はクラシック好きだと思ってたから、今日は意外です。どうして石丸幹二が好きなんですか? 僕は正直、『半沢直樹』の時の浅野支店長役の悪いイメージしかなくて……」
「私はちょっと変わってるの。十年程前にDVDでディズニーのアニメ『ノートルダムの鐘』を観て、カジモドに凄く共感して感動して、その役の声を石丸さんがやってたの。歌声が素晴らしくて、彼のCDを二枚持ってるわ」
「へぇー……。てっきり好みのタイプかと思って、ちょっと妬いてたんですが……」
「貴方の方がずっと素敵よ」
「ありがとう、お世辞でもうれしいです」
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人間て結局、嫉妬なのよ。あなたは三枚目を演じないとね。
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