【前回の記事を読む「――燃え方が、不自然だ」火災鑑定人が焼け跡で気づいた“異変”の正体は

第一章 火災鑑定という仕事

五 使命という名の炎

これら一連の実況見分と調査は、単なる慣習ではない。すべては、消防法という法の枠組みに基づいて行われている。

火災が発生したとき、現場の状況を把握し、原因を明らかにすることは、消防署に課せられた正当な義務であり、権限でもある。

だが、それだけではない。

調査にあたる消防職員たちの目の奥には、もっと深い動機という光が宿っている。

彼らは知っている。どんなに早く駆けつけても、炎がすべてを奪ってしまうことがあるということを。

どれだけ放水しても、助けられない命があるということを。

その無念が、彼らを突き動かしている。

現場に立つ者たちは、決して「終わった」などとは思っていない。炎が消えた後こそが、本当の仕事の始まりなのだ。

焼け跡に残るわずかな違和感、痕跡、証言。それらすべてを照らし合わせ、次の火を、次の犠牲を防ぐための鍵を探す。

再発防止。それは言葉で言うほど簡単ではない。

火の原因は多岐にわたり、ときに予測不能な要因が絡む。

だが、それでも我々は探る。燃えた理由を、ただ一つの“なぜ”を。

私がこの仕事を辞めず、退官してなお炎の痕跡に向き合い続ける理由も、そこにある。

約三千件の現場を踏み、無数の焼け跡と向き合ってきた。中には、どうしても「ただの事故」とは思えないものもあった。

そして今回の事件も、まさにそうだ。