【前回記事を読む】「虫けらの研究をしてる人?」平壌の女性は目を丸くした。私を「建築士」だと思っていた彼女に、昆虫学者だと伝えると……
1回目の訪朝
2 平壌(ピョンヤン)市内での採集記
■大城山(テソンサン)で糞虫と出会う
そんな中、私が最も印象深かった出来事は糞虫類の豊富さです。
糞虫類は都市化が進む現在、多くの国や地域で減少傾向にある昆虫類の一つです。朝鮮半島では「ソー(牛)トン(糞)グリ(転がす)」という名で親しまれている3種のタマオシコガネの仲間が生息していますが、それらを含め周辺諸国で絶滅が危惧されるような糞虫類も未だ朝鮮では観察されているのです。
牛を使った農作業が行われていること、糞虫類は主に地中で産卵をしますが、不必要に地面をコンクリートで固めていないこと、また殺虫剤や農薬などの人体に悪影響を及ぼす薬品類が厳格に規制されていることなどが生育環境の保全につながり、市内でも比較的簡単に採集することができるのだと思います。
朝鮮で最も一般的な昆虫類が糞虫類であり、特にダイコクコガネなのですから、日本の糞虫愛好家はきっと羨ましいはずです(写真7)。
大城山にも園内に牛がいたのですが、それに加えて漢方薬利用で鹿もたくさんいました。
一般の人からすれば糞はもちろん極力避けて通りたいものですが、「虫屋(昆虫愛好家の俗称)」からすると見逃せない絶好の採集ポイントです。
排泄物は糞虫類にとって大切な栄養源ですが、排泄を行った動物が草食なのか肉食なのか、それとも雑食なのかに加え、糞の乾燥状態によっても採集できる糞虫類が異なり、大変興味深い生態をもったグループです。何よりファーブル昆虫記では主役級の昆虫でもありますから、認知度は大変高い虫だと思います。
事前に糞虫類を採集するため、ちぎったティッシュをペットボトルに入れたものと、割り箸の準備をしてきた私は、糞を見つけると顔を近づけて粘り強くそれを観察しました。そして、糞虫類がいた場合にはそれらを割り箸で丁寧に摘み、小さな個体は吸虫管という採集道具で吸い取ってペットボトルの中に移していきました。
この虫は、文字通り糞を食べる昆虫類なので採集すると体中に糞が付着しています。それらを落とし、また食べた糞を排泄させ、標本時の腐敗を防ぐためにも一定の間はこのように生かしたまま容器に入れておくのが糞虫類採集の常識となっています(写真8)。
本当にカッコいい糞虫類なのですが、皆さんの想像通り……めちゃくちゃ臭い!
それでもまだ草を食べる牛の糞は大丈夫なのですが、雑食性の動物の排泄物はかなり臭く、水中で呼吸を止める訓練をしているように息を止めては採集をするということを、炎天下で何度も繰り返しました。