「会いたかったわ」
「僕も待ち遠しかった。元気な笑顔が見られて安心しました」
二人は萩城本丸跡を目指して散策を始めた。渡り始めた橋からは指月山(しづきやま)を背景に内堀を通して本丸の石垣を望むことができる。指月山の先は日本海だ。
「この橋は見ての通り石造りですが、かつては木造りで極楽橋とよばれていたそうです」
「極楽浄土の極楽橋?」
「ええ、死者の極楽往生を願う思いが命名の始まりのようですが、萩では毛利元就が浄土真宗を熱心に信仰し毛利家に根付いていたこともあって、石山本願寺由来とも言われています」
離れていても互いの状況は熟知していたので久し振りの再会にも拘らず他愛のない話題に花が咲く。二人はこうして会えたことだけで幸せだった。
「指月山は常緑広葉樹を主体とする暖地性原生林を今に残す森で覆われているそうです。山の麓では紅葉する落葉樹も散見されるけど、一年中緑で覆われています」
「色々と詳しいのね」
「実は昨夜、ネットで勉強しました」
如月の照れ笑いにホワイトも笑みがこぼれる。
如月とホワイトの左手の中指には各々サファイアとルビーの指輪が嵌っている。虫喰の森の仲間の証(あか)しとして虫喰の森の長老フローレから授かったのだ。
二人は指輪を通してテレパシーで繋がっていた。折に触れて会話を交わしているので互いの親密度は増していった。
しかし生活の場がシアトルに東京と互いに地球の反対側という地理的要件に加えて、共に日々の研究に多忙で専門領域も違い共同研究を行えるようなテーマもないことから、会える機会は多くはなかった。