「あのう、川名さん」

「はい」

「あのう、もしよろしかったら、僕と連絡先の交換をしませんか?」

「えっ、よろしいんですか?」

「はい、是非、よろしくお願いします」

「はい、わかりました。じゃあ私、この後四時半で上がりなので、帰宅の準備の前に、二階のヘルパーステーションに寄って、一ノ瀬さんのレターケースに私のスマホのメールアドレスも含めた電話番号を記載したメモを入れておきますけど、ちなみに一ノ瀬さんはLINEはされていますか?」

「あっ、あのう、実は、その点に関してなんですけど、実は僕、ちょっとお恥ずかしいお話なんですけど、このご時世にして、今時のLINE派ではなくて、未だにメール派なんです」

「あっ、そうなんですね。あっ、でも、それは別にお恥ずかしいことでもなんでもないと思いますよ。そこは人それぞれで、一ノ瀬さんがご自分でご自分のことをメール派であることにご納得されていらっしゃるなら、それでいいと思いますよ。ただ、一応、今後のことも考慮して私のLINEの情報も入れておきますね」

「あっ、申し訳ありません。お手数をお掛けいたします。よろしくお願いいたします」

一ノ瀬は自分の土壇場での窮余の策が幸いにも功を奏し、自分の思惑通りに事が運んで内心小躍りしたくなるような気分に包まれていたが、その成功の裏には川名香澄の人柄に救われたともいえるかもしれなかった。

そもそも一ノ瀬と川名香澄とは同じ現場で勤務していながら、日々、それぞれが担当する業務上、お互いにそんなに接点があったわけではない。