午後練が始まる前にグラウンド整備、略してグラセンというグラウンドをトンボでならしたり水撒きをしたりする下っ端がやる作業がある。
「ぜったいに今日の午後もいるから見てみろよ」
浩介の言葉を思い浮かべた。最近、浩介はチャラついて様子がおかしい。他のクラスの奴らも可愛い女子をチェックしたりランク分けしたり、少しでもかっこつけるために外見を変えたりやりすぎだ。そのために髪の毛を整えたり制服を着崩したりしている。
おれがせっせとトンボでグラウンドをならしていると、グラウンドのフェンス越しに女子の姿が目に入った。校庭の外は通学路になっていて、その一本道とグラウンドはフェンスで仕切られていた。
肩までの髪、白い肌。昼間のあいつだ。こちらをずっと見ている。浩介の言葉が耳にまとわりついてうるさい。おれは怯んだ様に顔をひき、帽子のつばを下にした。
「見た? いただろ?」
浩介がにやにやしながら駆け寄ってきて、おれの肩に手を置いた。
「昼間のキャッチボールしているのはおれとトシだけだからー、ってことはさぁ」
おれは肩に置かれた浩介の手を振り払った。
「うるせぇーよ、お前。しつこいぞ」
「なんだ、お前」
おれは浩介から数歩離れて、またグラウンド整備を始めた。何故か今日のグラセンは念入りにやってしまった。
今日も一日疲れた。中学に入ってからというもの、ゆっくりと独りで考え事をする場所は布団の中しかない。おれはクタクタになって布団の中に滑り込む。
目を閉じると、昼間野球を覗いていたあの女子の姿が浮かんだ。お互い名前さえ知らない。それなのに気があるなんてどうかしてる。だけど、浩介の言葉が思い出されると、身がよじれるような思いがする。おれは仰向けの姿勢から寝返りを打った。
あの女子の姿がぼんやりと薄れて、ある一人の男が現れた。白いシャツに白いズボン。