はじめに

小学4年生の時に初めて読んだ、手塚治虫先生の「ブラックジャック」に憧れて、私は外科医を目指しました。

なんでもできる外科医になりたい!とまじめに考えていたのです。

ブラックジャックには、たくさんの移植手術の場面がでてきます。彼自身も顔の皮膚や足の一部を移植されていますしね。

そんな影響があって、マンガのようにうまくいくかなんてわからないのに、大学進学後には、ほかの人があまりしていない難しい手術、そうだ、移植手術にも挑戦したい!と思うようになったのです。

将来、移植外科医になるぞと、気持ちが高まってきた1989年に、日本初の生体肝移植が、島根医科大学病院で行われたとのニュースを目にしました。

ついに、現実のものになったと感激したのですが、日本のスタートは、アメリカより20年も遅れていることを知り、複雑な気持ちでした。

いつか外国でも学び、日本がなぜ遅れているのかを知りたい、そして、外科医になるからには、何とかして、移植を必要とする人の役に立つ仕事をしたい、とそのころから心に誓っていました。

2025年1月の時点で、慢性腎臓病の治療中、すなわち将来腎不全となる可能性のある方は、約66万人とされています(注1)

これらの方のうち、毎年3万5千人以上の方が腎代替療法を必要としています(注2)

しかし、最良の腎代替療法と思われる腎移植を受ける方は、多くても年間に2000人程度しかいないのです(注3)

腎移植を必要とする人のために、何ができるかを考えながら、30年以上臓器移植に関わり、腎移植外科医として25年間を、腎移植患者さんたちとともに過ごしてきました。

これまでの間に何人かの方からいただいた、「丸井先生に出会わなかったら、腎移植という選択はなかった」との言葉は、私にとって大きな励みになりました。

腎移植を必要とする患者さん、そのご家族に私が伝えてきたことが、腎移植を決断するきっかけになったのだとしたら、そしてその後、腎移植を受けて良かったと思える生活を続けてくれているとしたら、私がしてきたことをより多くの人に伝えることが、腎移植を必要な人に届ける手助けになるのではないかと考えました。

腎不全が進行して、腎代替療法を始めなければならないご本人、ご家族は大きな不安を持たれていると思います。でも、それを新たな船出ととらえて気持ちを切り替えられると、少し気持ちが楽になるのではないでしょうか。

透析という大型船に乗って海を渡ることは、安全で確実な方法です。一方で、腎移植という船も、しっかりと操縦していくことを身につければ、自由な航海に進んでいくことができるのです。

大切な人と、いつまでも良い生活を続けていただくために、小著が「腎移植という選択」を考えてもらえる一助になれば幸いです。