【序章 海外駐在員という仕事】

インターネットやスマホの普及によって、今や、世界中のありとあらゆる情報が自分の手元で見られるようになった。

また、テレビから一方的に流される情報をただ受けるだけでなく、自分の興味がある地域について、観光やグルメから政治や歴史に至るまでのあらゆるテーマの情報を幾らでも深堀りして調べられる時代にもなった。

それでもなお、実際にその地に行って、自らの身体で何かを感じることで得られる情報には遠く及ばない。

百聞は一見に如かず。旅行でその地に足を踏み込んで見るだけでも、ネットや書籍で想像していたのとは全く次元の異なる経験が出来るものだが、暫くの間その地に住んで、その土地の人々と一緒に仕事をすると、さらにいろんなものが見えてくる。

自分は、いわゆる海外駐在員として、スペイン、メキシコ、オランダ、ロシア、フランスの五か国に赴任し、その地で仕事をした。

考えてみれば、駐在というのも、いささか古めかしくて不思議な響きの日本語で、日本企業独自のシステムのような印象もあるが、英語でもExpatriate、略称Expatという用語があり、本社籍の社員をどこかの国に派遣して本社との繋ぎ役を担わせるという制度は、多くの国のグローバル企業が採用している。

駐在は、現地採用とは異なり、一定の任期があることが多い。

同じところにずっといると、周りの全てが当たり前になってしまい、その環境を客観視するのが難しいが、異国の地に身を置いてそこで仕事をするとなると、自分の母国と任国の文化や慣習の違いを嫌というほど味わい、物事を客観視せざるを得ない環境に置かれる。

かなりのストレスを伴う経験だが、そういう立場に身を置くことが、自分は好きだった。

そんな風に数年単位で世界のあちこちを転々としてきた自分は、現代のノマド(遊牧民)と言えるかもしれない。

本書は、そんな自分が、各国赴任中に見たり感じたりした様々な感慨を、一冊の本に纏めてみたものである。

海外駐在員を目指している、或いは、実際に辞令をもらったという方に限らず、海外に興味のある様々な方に広くお読みいただければ、筆者として存外の幸せである。