【前回の記事を読む】毒針を出して襲いかかる雀蜂を、少年は小刀で次々と斬り落とした…切り口を見て、ただ者ではないと悟った。彼の名は…
第一章 蜂の武蔵
一
小童の一人が布団を敷き、更にふらつきがひどくなっている侍を、急いで寝かせた。見ると少し息も荒くなっている。いよいよ治療薬が必要と思われ、伊織は漢方薬の知識が豊富な姉のお琴に急を告げ助けを求めることになった。
「どうしたの? このお侍さん」とお琴は侍の状態を見て伊織に聞くと、蜂に刺された後とのことも踏まえ、黄麻(こうま)を主体に薬草を選び、急いで煎じて持ってきてくれた。この薬湯を何とか飲ませると侍は寝入ってしまった。
「蜂の子取りに行っていたとき、戻り蜂に気が付かなかったんだけど、首を刺される前に、この侍さんに叩き落としてもらった恩があるんだ。でも、逆に、お侍さんも、刺されそうになった時、こちらが切り落とすことができず、刺されちゃった。自分だけ事なきを得てるんじゃないかと、なんかバツが悪いから、連れてきた」
「ところで、名前聞いておいたの」
「たしか、ミヤモト、ムサシと名乗っていたよ」