「橋岡さんが八王子を出るなんて、なんだか八王子ももう終わりだっていう感じがするわね。仕事も家もないのに八王子に来て、天使みたいだったのよ。なんだかワクワクして、お金が貯まってこのアパートに入ってくれた時は本当に嬉しかった。こんなに早く出て行っちゃうなんてね。だけど、橋岡さんなら大丈夫よ。警備の仕事をするなんて考えられないわ。橋岡さん、逞しいわ。だから余計に寂しくなっちゃうのよ。もう行くわね。涙が止まらないの。橋岡さん、また会おうね」
早口の甲高い声でそう言い、自転車に乗って一目散に去って行った。
秋の夕暮れはとても綺麗で少しひんやりとした風は余計に感傷的な気分にさせた。私は振り返らずにジムニーに乗った。私も涙を流していた。
たった一人で東京へ来たけれど、色んな人との出会いがあり、色んな人が応援してくれて、色んな人に慕われて、私は今日も生きている。
「橋岡さん、春になったらお仕事が早く終わった時に一時間くらい家に寄ってくれないかしら? 私、またパソコンを頑張ろうと思うの」
「是非。宜しくお願いします」
本当はパソコンなんてどうでもいいのだろう。独り者の女同士、ぺちゃくちゃお喋りをするべきなのだ。お茶でもしながら一時間くらいお喋りをしよう。
そうだ、札幌からお土産を買って来よう。『白い恋人』じゃつまらないかな。ラベンダーの香水だっていらないだろう。
「ねぇ、橋岡さん。ボケないようにするにはどうすればいいかしら?」
その言葉を思い出した。会話に花咲くものを見つけ、写真を見せ、お土産話と共に一時間くらいお邪魔をすることにしよう。
お茶でもしながら一時間くらいお喋りをしよう。
▶この話の続きを読む
10人からプロポーズされたとして、その中から一人選ぶことすら私にはできない。自分の意思というものが明らかに欠落している。
【イチオシ記事】熱いキスをすると彼女の頬が染まり、どきどきしているのが伝わってきた。僕は激しく、優しく彼女を抱いて…
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?