【前回の記事を読む】「アホか、君は」なぜ欺けると思ったのか……念押ししたにも関わらず、提出されたレポートの冒頭1行目は、明らかにAIが作った文章だった

Episode1.AI・ブルース

ChatGPTの学習範囲は、綾瀬が著(あらわ)した研究書の内容にも及んでいたであろう。しかし、「認識論的、客観的、客体的な視点」という表現を使った段階で、このAIは綾瀬が切り拓いた認識言語類型論の論理内容を処理できていないことを露呈(ろてい)させていた。

綾瀬の授業において、この問題に取り組んだ学生達は有谷を除き、英語の〝adjective(形容詞)〟と日本語の「形容詞」が、異なる認知モードでの事態把握により、根本的に互換性を持たない品詞カテゴリとして創発していることを発見していたのである。

綾瀬は有谷のクラス担任である濱野(はまの)孝介准教授に、有谷のレポートの出だしとChatGPTの回答文を添付し、有谷のレポートが剽窃に当たることを述べたメールを送った。3日後、濱野から、英語学概論のレポートの出だしをAIの回答を用いて作成したことを有谷が認めているという返信があった。

綾瀬は再度溜息をつき、棟の同じ階にある濱野の研究室を訪ねた。そして有谷のレポート全文とChatGPTの回答文全文を濱野に見せ、レポート本文と結論部分にも、彼がChatGPTの回答文をそのまま使っていることを示した。

濱野は、服に染み付いたタバコの臭いを漂わせながら申し訳なさそうに言った。

「こちらで確認を取ったところ、英語学概論の授業内容が理解できなくて、レポートの導入部分だけChatGPTの回答を用いたと言っていました」

綾瀬は少し考え、濱野に次のように告げた。

「ネットからの引用をそのまま自分の考えとして発表する授業態度や、再三の注意にもかかわらずレポート作成で剽窃を行っていること、さらに剽窃箇所について嘘をついて誤魔化そうとする行為は、かなり悪質だと思っています」

さらに言葉を続けた。

「授業担当者としては今回の剽窃の悪質性から判断して、全教科の単位認定不可もあり得ると思いますが、学生指導部長と担任で相談してください。その判断に従うつもりです」