誰かを蹴落とすことよりも、弱みを握ることよりも、誰かの背中をさすりながら情報を抽出することよりも、善人の顔を維持し続けることの方がはるかにコストが高い。
気を抜く時間を一切確保せずに動き続けると、どこかが軋む。でも軋みは内側だけにしておけ。外に出すな。内出血は外に見せるな。
我慢する。するしかない。
ちやほやされるためには。求められるためには。居場所を守るためには。
この計算が間違っていないことは、毎月の数字が証明してくれる。
それからの数年間を要約するなら、怒涛という言葉が1番近い。
ライバルを蹴落とした。重鎮を脅した。情報を武器にした。人間関係を設計した。
手持ちの弱みファイルは、今やフォルダ分けが必要なほどの量になっている。共演者、ディレクター、プロデューサー、後輩。
それぞれのフォルダに、それぞれの急所が整理して保存されている。パスワードは乱数の16桁。バックアップは三重。整理整頓だけは丁寧にしている。
情報の運用は中学時代より洗練された。
直接使わない。それが鉄則だ。直接使うと証跡が残る。証跡が残ると私に向かって来る刃の向きが特定される。だから間接的に使う。ある情報をある人物にさりげなく流すと、その人物が勝手に動く。
私は何もしていない。
ただ会話の中で1つの事実に言及しただけだ。その事実がドミノ倒しのように連鎖反応を起こして、結果的に私の邪魔な存在が排除される。因果の線は複雑に折れ曲がっていて、私のところまで辿り着かない。
これを中学の教室でやっていた時は、もっと粗かった。
今は精密だ。精度が上がった。
それだけ場数を踏んだということだ。腕が上がったと表現するには、いささか業種が不健全すぎるが。
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