ある日、亀島が「今度出る番組のディレクターに千晴の話したんだけど」と、それはそれは何でもない顔で言った。

本当に何でもない顔をする。今日の昼何食べようかという顔と同じ顔で、人の人生に介入してくる。

話を聞けば、キー局のバラエティ番組で、1度ゲストとして出てみないかという話だった。

「千晴って絶対面白いと思うって言ったら、試しに1回って言ってくれた」と彼女は言った。

そんなんでいいのか。仮にもメディアだろ、第4の権力とも呼ばれる。

売れかけの女優の「絶対面白い」という一言が、これほどの重さを持つとは。

私のそれまでの半年間、何が来たか。再現VTRの靴。ひな壇の端っこで2秒。それが亀島の一言で、一気にシフトした。業界というのは属人的な推薦システムで動いている。誰が何を言うか。誰が誰に頼むか。その重みは数字には換算できない。

番組に出た。亀島の太鼓判があったせいか、スタッフの扱いが再現VTRの現場とは別次元だった。名前を呼ばれた。意見を聞かれた。収録後に「また来てね」と言われた。また来てね、という言葉がこれほど輝いて聞こえたことは人生で一度もない。

それからは転がり始めた。

女性誌の取材が来た。『現役K大生タレント』というタグがついた。亀島が別の雑誌のインタビューで私の名前を出してくれたことがきっかけだった。聞かれてもいないのに自分から出してくれた。そのくらい、彼女は私のことを本当の友人だと思っていた。

本当の友人。

その言葉が脳内で浮かぶ時、私の脳のどこかがわずかに引っかかる。喉に焼き魚の骨が刺さったかのように、飲み込む一瞬一瞬に、ちりっとした感触を主張してくる。米粒を噛まずに飲み込んでやりたいが、友好的な手段が浮かばなかった。

亀島と過ごす時間は確かに濃くなっていた。

大学の勉強を教えてもらうようになったのもこの頃だ。亀島の専攻は私とは違って、海外文学だ。正確には海外近代文学と翻訳理論の交差点みたいなところをやっていた。訳された言葉はどこで変質するか、という話を彼女はやたら熱量高く話した。

私には関係のない話だったが、関係のない話をこれほど熱く語れる人間を、私は久しぶりに見た。というか、初めてかもしれない。利害関係のない場所で燃えられる人間というのは、それだけで希少種だ。思い返せば、私の周囲には極端な功利主義者しかいなかったと思う。

トロッコ問題で言えば、迷わずレバーを切り替えて1人を犠牲にする。私自身が最大の功利主義者だから、引き寄せの法則で類が友を呼んでいた可能性もある。

 

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