【前回の記事を読む】「亀島ちゃんはね、今ちょっとやばいんだよ」…夜の店で聞いたとある女優の不倫疑惑。偶然にも同じ大学に通う学生で……

9.友だちを殺してまで

私は亀島が1人でいる瞬間を見計らうために数日間、彼女を軽く尾行した。ストーキングに軽いも何もないかもしれないが。

すると、彼女なりのルーティーンなのか、昼食は1人で食べがちであることが分かった。それは日陰者が強いられる孤立のぼっち飯ではなく、クールビューティーにあふれた孤高のランチタイムだ。さすがは芸能人といった感じで、食事の動作一挙手一投足が様になっている。

私はここがファーストコンタクトのチャンスだと踏み切った。

第一印象は重要だ。

作戦当日までに彼女が常に持ち運んでいた、分厚い文庫本を読み切った。あと、彼女が1番好きだとインタビューで答えていた作家の有名作品はあらかた読んできた。仕事を増やすための必要出費ということで、経費で落としてくれないか。

作戦当日、私は予定通り亀島を捉えることができた。昼過ぎの学食。それも大学構内に食堂は3つもあるのに加えて、周囲にも飲食店は充実しているためか、がらんどうといった様子。そっちの方が都合がよい。

適当に注文した日替わり定食のトレーを持って、さり気なく亀島の方へ向かっていく。そして、1人うどんを啜りながら、文庫本を片手で読む亀島が持つ本の背表紙を一瞥して言う。

「それ読みましたよ、3回」

亀島は顔を上げた。疑うでも警戒するでもなく、ただ純粋に驚いたような顔をして。そういう顔ができる人間というのが、私にはまず理解できない。世界はlove&peaceに満ちていると信じている顔だ。

二十数年の人生で、そんな顔ができなくなってしまった私には、ある種の感慨すらある。汚れちまった悲しみに。今なら中原中也の気持ちも理解できるかもしれない。

「え、本当に?」

「その作家の中だと1番好きです。賞取ったあっちじゃなくてこっちが好きって言うと変な顔される」

亀島は笑った。確認していた通りのクシャっとした笑い方だった。目の端が少し下がって、右の口角の方が上がる。SNSの自撮りと寸分違わない。