語りは、特別な場所で始まるものではない。日々の暮らしの中に、氣が満ち、言葉が宿る。私はこの机の前で、何度も口にしてきた。

人は、幸せになるために生まれてきたのだ。

広間の一角で紡がれる言葉は、風のように静かに、しかし確かに、人の心に届いていく。

私は、人の命だけでなく、空間に宿る命にも耳を澄ませる。

庭には、風の音がある。木の呼吸がある。

小さな命の鼓動がある。

暮らしとは、自然と共にあることだと、庭が教えてくれる。

大広間から続くウッドデッキは、庭園につながっている。

ここは、私にとって「氣の場」だ。

はなちゃんが駆け回る姿を見るだけで、命の喜びが戻ってくる。

私はここで、毎朝、氣を整え、風と対話をする。庭園の樹木が運ぶ風が、空間に氣を満たし心を澄ませてくれる。

そして、不思議なことに― 心が整うと、言葉も整う。

風と光が通る広間の片隅で、私は今日も机に向かう。書くことは、立派なことではない。

ただ――心を整え、次の一歩を踏むための稽古だ。この本は、その稽古の記録である。

私は、ここで暮らしながらもう一度書き始めた。風が通る方へ。

次の章から、私の旅の話をゆっくり綴っていく。

はじめに――静けさの方へ歩み始めて

人生には、ある時ふと、

「もう戦わなくていい」と気づく瞬間があります。

あの日、はなちゃんと歩いた晩秋の小径。落ち葉を踏むたび、

胸の奥に絡みついていた重たい荷物が、一つ、

また一つと、ほどけていくのを感じました。

長い年月、

私は人を守り、会社を守り、

家族を守るために、

言葉にならない闘いを続けてきました。

けれど、人生の後半に差しかかった今、

風の方へ歩いていこう、

静けさの方へ向かっていこうと、

ようやく、

身体(からだ)の芯から思えるようになりました。

本書は、

そんな私の「心に風が通る時」を、

呼吸するように、そのまま言葉にしたものです。

もしも、あなたの心にも

少しでも風が通り抜けてくれたら、

それだけで、

私は十分だと思っています。