彼らが死ぬたびに剥製にしては竹輪のように研究室の机の上に並べていた。何本の竹輪が並んだことか。それがお世話になったこの子らへのせめてもの弔いだったのかもしれない。それにしてもあの当時はネズミのことばかり考えていた。人生の悩みと言えばネズミ、ネズミと言えば人生の悩み。風貌が似るほどではなかったけれどかなりどっぷりとネズミにつかっていた。

でも大学を卒業して環境が変われば、悩みの種はネズミから人間に変わっていた。悩みなんてこんなものかもしれない。時間が解決してくれるって本当の話かも。もしみんなの中にどうしようもない悩みを抱えている人がいたら、とりあえず友達や先生に相談しながら時間を稼ぎ3年待ってみよう。3年経ち環境も変わればその悩みはちっぽけな悩みに変わっているかもしれないのだ。

続・ネズミの頃

と言っても、私が昔、ネズミだったわけではない。分け入っても分け入っても青い山の中で、ネズミを追いかけて調査研究をしていた学生の頃の話である。

さて、動物の生態を調査研究するにあたって、イロハのイとは何か? それは、調査対象となる動物一人ひとりの個体が識別できることだ。このネズミは、太郎だとか、次郎だ、花子だという具合に。

名前は別にいいのだが、カラスのような鳥であれば脚にリングを付ける、トンボなら羽にマジックで番号を書く、ゴリラであれば一頭一頭異なる鼻のしわで見分ける。すごい! シマウマは、どう見ても同じにしか見えないあの縞模様で識別する。すごすぎる!……という具合に。

で、ネズミの場合はどうするかというと二つの方法がある。一つは指切法。ネズミは指が前肢に4本、後肢に5本あるから、前肢を10の位(10~90)、後肢を1の位(0~9)に決めて指を切ればその組み合わせで1から99番までの個体が識別できる。

指を切るなんて残酷!と初めは思ったけど、指導教官だったネズミの先生が「この子らにとっては爪を切るようなもの」とおっしゃったからそんなものだろうと思っていた。確かに関節で上手に切ってやれば血は出ない。上手に切ればの話。指切法は個体識別としては完璧だが離れたところからネズミを観察するには適さない。よく見えないのだ。その場合は毛刈法を用いる。

毛刈法とはその名のとおり個体ごとに頭のてっぺんやら左右の頬、胴体の左右前後の毛を刈るのである。毛を刈る箇所を組み合わせればそのトラ刈り(ネズミ刈り?)状態でかなりの個体数を識別できる。しかし、いずれ毛は伸びてくる。指は切れば一生もの。どちらにすべきか? 毛刈法? 指切法? 両方?

学生の頃はこんなことに日夜ハムレットしながら、漠然と将来に不安も感じていた。

 

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