仲ノ町にずらりと植えられている桜が、まるで桃色の絨毯のように一面に咲いた頃、何度目かの僕の訪問がありました。 見たことのない薄紫色の花を携えた僕は気恥ずかしそうに、
「その……桜は毎年、見れると思うので……」
まるで独り言のようにもごもごと「アケビ、という花なんだそうです……」と遠慮がちに太夫に手渡し、いつものように絵を描き始めました。
花瓶に活けたアケビがしおれてきた頃。
「こちらはハナミズキ、というそうです」
頃合いを見計らうように薄紅色の花を持ってきました。
「ハナミズキの花は黄色なんです」
花を見ながら、何を言いんす? と不思議そうに見つめる太夫に、
「その、紅色の花びらのように見えるのは実は葉っぱで……本当のお花はその中なのです」
目を凝らして見ると、確かに花びらと思われる薄紅の中に、小さな黄色い膨らみがいくつも佇んでいるのが窺えます。
「紅に見えて、本当(ほん)は黄色……」
静かに筆を走らせていく僕の気配を感じながら、深雪太夫はなんとも言えない心地の良さを感じていました。
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