運動と認知症の関係を確かめるとき、運動している人としてない人を観察すれば、「運動している人は認知症のリスクが低い」という相関関係の有無はわかる。

しかし運動するから認知症のリスクが低いのか、認知症のリスクが低いから運動するのか、これは観察研究をいくらやってもわからない。

さらに健康状態などが交絡因子[注1]だとすれば、健康状態が良いから運動するとともに認知症のリスクも低いということになる。いずれにしろ因果関係は不明である。

一方、「運動させれば認知症のリスクが低くなる」という因果関係の仮説を立て、その仮説に基づいて運動させ認知症のリスクが低くなるか調べる介入(実験)研究をすれば因果関係の有無が明らかになる。

重要なのは実験である。

本書では、カントの認識論を基に、相関関係と因果関係の違いを明確にし、因果関係はどのようにして証明されるのかを論じたい。

カントが、『純粋理性批判』[注2]の中で、「自然を強要して自分の問いに答えさせねばならない」と言っているように因果関係の証明(推論ではない)には実験が必須になる。

疫学の某研究者は、「実験が必要不可欠と考えるのは思い込み」で、「疫学研究こそむしろ直接的な証明」という。

これでは実験しないで因果関係を証明できるように思えてしまう。

本来、実験が困難なときに疫学研究(観察研究)による推論を証明とみなすだけなのだが、世間には観察研究だけで因果関係を証明できるような受け止め方をされている。

推論と証明を混同させてはならないと思う。

さまざまなフェイク情報が広まっている今日、相関と因果についても不確かな情報に惑わされることのないよう、因果関係はどのようにして証明されるのかを理解し情報の真偽を見抜く目を養ってもらいたい。