奥のほうのベッドに、アムっぽい尻尾が見えた。
「アム?」
と、思わず叫んだが、聞こえる訳がない。代わりに、窓の下から急に、男の先生の顔がひょこっと上がってきた。
「こ、こんにちは。ぼ、ぼ、ぼく、タイキです。すみません! アムが心配で」
「タイキ君か。大丈夫、アムはもう大丈夫だよ。中に入るかい?」院長先生が優しい声で、そう言った。
本当は入りたい。でも、恥ずかしいのと、急にショウキの顔が浮かんできて、何だか後ろめたくなってしまって、ハイと言えなかった。
「いいです。また、明日来ます」
次の日、ぼくはまたくりちゃん先生の所へ行こうと思った。今日はショウキを連れて行こう。
「ショウ君、アムんとこ、行こう!」
と、声をかけてみた。が、返事がない。変だなあ。さっきまでリビングにいたんだけど。
少し、家の中を探してみたけれど、やっぱりショウキはいなかった。
「まっ、いいか」
自転車を出して、家の前に出ると、何とそこにショウキが足を開き、踏(ふ)ん張って立っていた。仁王立(におうだ)ちだ。
「タイ君! また、一人でアムのところへ行こうとしたでしょ!」怖い顔だ。何だか怒っているみたいだ。まずいぞ! 昨日くりちゃん先生のところへ行ったことがばれている!「違うよ、違うよ。今、ショウ君を探していたんだぞ」
「そうお?」
ショウキはまだ疑(うたが)わしげだったが、一緒に出発することになった。ぼくらは自転車を飛ばした。弟の自転車は車輪が小さい。ものすごいスピードでこいでいる。まるで、自転車の選手のようだ。後ろから見ているとおもしろい。よくあんなに速くこげるものだ。
駅を過ぎると、高速道路の上を渡る坂道だ。上(のぼ)りがきつい。よいしょっ、よいしょっ、と立ちこぎをしてようやく頂上に着(つ)くと、そこからは、一気に下りだ。ヒューッ! いい気持ち!!
消防署(しょ)の角を左に曲がると、ようやく、くりちゃん動物病院に着いた。昨日のように、横へ回って、窓から中をのぞいてみた。ショウキはとどかないので、ぴょんぴょこはねている。仕方がないから、抱っこをしてあげた。
「うーんっ!」
めちゃくちゃ重いやつだ。一体(いったい)何キロあるんだろう。
「どこどこ? アムはどこ?」
「ほら、あそこの隅(すみ)、ベッドがあるだろう」
「いたいた! アムっ!」
ショウキが大きな声で叫んだ。ぼくは驚いて、弟を落っことしそうになった。
急に、目の前に、今日はお姉さんの顔がすーっと出てきた。
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