【前回の記事を読む】『#家出少女』——これに1文を添えるだけで、すぐに男からDMが…駅の改札で待っていたのは、歳の差が倍以上ありそうな男性で……

6.異次元の暮らし

2回目以降は要領が分かった。

声をかけてくる人間のほぼ全員が、社会でうまくいっていない男だった。会社での立場が弱い。異性関係に自信がない。性格や趣味、容姿等に難がある。

そんな人間が9割5分だった。

俗にいう弱者男性だった。

普通の方法では相手にされないから、さらに弱者である家出少女に構う。弱者が弱者に群がっている。角砂糖に蟻んこが集うように。社会の底の方で起きていることの縮図がそこにあった。

私もその底にいた。底にいたから、底の構造がよく見えた。私は踏まれる側にいた。踏まれる側に一生甘んじるつもりは毛頭なかったが、少なくとも高校時代は踏まれることをありがたいと思って、生活しなければならないのだと決心した。その決心は青春時めくFJKにはあまりに生々しかった。解禁しなくてもいいトロフィーばかりを獲得しているような感覚だった。

体を売ったこともある。

最初の相手は20代の清潔さ、純潔さに溢れる男。社会でもそれなりに成功していて特に難もない男。9割5分に属さない、残り5分の人間だった。

ビジネスホテルの一室に入る前に金を確認した。財布から出てきた万札の枚数を指で数えながら、これは取引だと思った。取引だから成立条件がある。成立条件を満たせば、それ以外のことは関係ない。頭の中でそうやって仕切りを作った。作ることが私にとって最後の抵抗だったのかもしれない。

事が終わったあと、男はすぐ眠った。私はシャワーを借りた。お湯を出して、壁に背中を預けて、しばらくそこにいた。泣かなかった。泣けなかったわけじゃない。泣く必要を感じなかった。ただ、お湯が肌を伝っていくのを見ていた。どこかに流れていく感じがした。何が流れているのかは分かるだろう。

翌朝、ホテルを出て駅に向かいながら、朝の通勤ラッシュの中に混じった。背広をビシッと着たサラリーマンが、イヤホンをして脇を通り過ぎた。トートバッグを持った茶髪の女が、スマホを見ながら歩いていた。誰も私を見なかった。

私が昨夜何をしたか、誰も知らなかった。その行為がいわゆる反社会的でモラルに反するような行為であることを。

知らないまま肩がぶつかって、誰も謝らなかった。

朝の慌ただしい駅というのは、全員が透明だ。透明人間が透明人間にぶつかって、透明なまま流れていく。私もその流れの中にいた。流れながら、自分がどこかに消えていく感じがした。消えていく感じが、悪くなかった。気持ちが何だかフラットに戻る感覚があった。