だが、次の人間は応じた。

その男の最寄駅の改札で待ち合わせて、顔を見た瞬間に値踏みした。

40代前後。清潔感は及第点といったところ。62点。目が泳いでいる。こちらの年齢をどこかで確認したがっているが、聞けない。

聞いたら自分の目的が明確になってしまうから。

「肉欲だけに従って女子高生とコンタクトを取りました」なんて反社会的な行動を認めたくないのだろう。

そこに人助けという親切心を建前にしなければ、やってられないのだろう。人間は自分の欲望を自分で直視できない生き物だ。浅ましい欲望に従って愚直に生きるしかないのに。

5分ほど歩いたあたりで、腕に触れてきた。さりげなさを装っていたが、さりげなくなかった。品定めをする時の手つきだった。女性関係のなさを告白するかのような手つきだった。

私は避けなかった。避けると交渉が複雑になる。ここで「見ず知らずの人間に触られたくない」という私自身が持っている率直な感情に従うことに実利はないのだ。実利がないだけで私の精神衛生上、良くはない。

男のマンションの前まで来た時、私は冷酷さを意識して言い放った。

「未成年だから、何かあったら警察に言う」

その一言で男の顔が変わった。面白いほど変わった。1秒で変わった。

さっきまでの余裕っぽさが消えて、急に挙動不審になった。そしてその裏には静かな落胆があったように思える。落胆は隠せない。

部屋に入ると、先ほどまでのソワソワした様子はどこへやらといった感じで、「ソファで寝ていい」とぶっきらぼうに言われた。

男が不審な動きをするといけないので録音アプリをつけたが、翌朝聞いても私の寝息しか録音されていなかった。セーフ。

ただ、その寝息を聞いていて少し泣きそうになった。理由はわからなかった。分かりたくもなかった。

男は帰り際に1000円札を3枚置いていってくれた。同情なのか罪悪感なのか知らないが、それをありがたく頂戴した。その金で適当に朝食と昼飯を買ってそのまま登校した。駅の本屋で好きな作家の新刊を買った。

着の身着のままで家を飛び出て、制服のまま知らない男の部屋に泊まって、コンビニのおにぎりを食べながら学校に向かうのは、思ったより普通のことだった。普通に感じられてしまった、ということが、普通ではなかったのかもしれない。

これが最初だった。

次回更新は7月30日(木)、16時の予定です。

 

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