【前回の記事を読む】娘が家を出ていった日…「私の人生は、あなたに利用されただけ。普通に生きたかった。」“あなた”呼ばわりされた反動で、物を投げつけてしまい……

6.異次元の暮らし

泊まる場所を確保するのが問題だった。

クラスメイトの家を頼る選択肢が真っ先に浮かんだ。現に複数の友人関係にある人間の家を転々として、あの人の傘下を逃れてきていた。でも友人の家を転々とするのも限界があった。

相手に気を遣わせる。関係に負荷をかける。負荷がかかった関係は、いずれ軋む。軋みは亀裂を生む。この計算は間違えたくなかった。ホテルは未成年では難しい。ネットカフェも身分証の問題がある。

だが、何の宛先もなく家を出てしまった無鉄砲さに後悔よりも充足感が満ちた。この一文で本山家という存在がいかに私の重荷になっていたかがわかるだろう。

ほどなくしてSNSで新たにアカウントを立ち上げた。実生活で関係のある人間とは繋がれないよう、適当なハンドルネームを付けた。

そしてそこに1枚の写真を投稿した。顔の半分だけ映した、暗闇の中での1枚。余白のある、意味深な構図の自撮り。

「誰でもいいから泊めてください」という一文と、文末に頭の悪そうな絵文字。そして『#家出少女』というタグをつけた。

その投稿は数時間で反応が来た。

最初にDMが来たのは30代半ばの男。プロフィール写真は風景だった。風景写真を使う男というのは一定の傾向がある。

自分の顔を出せない理由がある。あるいは顔を出すほどの自信がない。そして家出少女のタグを深夜に漁っている。

その行動を彼の所属するコミュニティで明かせば、彼は後ろ指をさされること間違いなしだろう。下半身に正直な奴だ。

「大丈夫? 話聞くよ」

この手のDMのテンプレートだ。「大丈夫?」から入って「話聞くよ」で終わる。親切心を装った接触。でも目的は別にある。

目的があるから夜中に見知らぬ少女のタグを漁る。見せかけの親切心を剥がしていったら欲望にまみれた欲求があるんだろ。そうに決まってる。

私は返信した。

泊まる場所が必要なことを伝えた。直接的に。遠回しにしても時間の無駄だ。向こうも直接的な提案をしてくる。だったらこちらも最初から条件交渉に入った方が早い。腹を割って、臓物をぶちまけて話そう。

この人は断ってきた。さすがに怖かったのかもしれない。