【前回記事を読む】2022年7月に急逝した安倍晋三内閣総理大臣。彼は「皇統」の課題に対してどのような考えだったのか。それが垣間見える文章が……
まえがき
筆者は、世界三大墳墓・仁徳(にんとく)天皇陵古墳1を含む堺市・百舌鳥古墳群近傍に生を受けた。また前述で触れた通り外祖母の先祖は江戸初期より代々、出雲国・雲州松江藩(松平家)に禄を食む。
天皇大権と元老制度が存した昭和改元時の宰相で、重臣として昭和天皇を輔弼(ほひつ)2した男爵・若槻禮次郎(わかつきれいじろう)公は遠い姻戚3に、そして大日本體育協會4第2代会長や国際オリンピック委員会(IOC)委員として戦前の東京五輪招致に尽力し、貴族院議員や東京弁護士会5会長を務めた岸清一(きしせいいち)博士は親戚筋にあたる。
若槻公や岸博士をはじめとして彼の地からは次々に優秀な人材が輩出された歴史的事実があり、筆者は松江藩に備わる土壌・風土、あるいは出身人物たちの持つ思想・哲学に誇りを感じる。そして自身の座右の銘「温故知新」「和魂洋才」「古今東西」など、思想や価値観に大きな影響を受けている。
かねてより筆者は、自身の経営する会社ウェブサイト上の連載コラム「時論」で、社会の諸相に対する自身の所感を展開してきた。これは、外祖母の遺した「徳育」そして日本(対欧米)の歴史観・伝統的価値観の視座から、平成・令和社会への違和感を問う内容である。
この度は、これらを「広義」かつ「究極」の「知的財産」、すなわち「無形資産」(Intangible Assets)として形而上に捉え、還暦の節目としての書籍刊行に至ったのである。
2025年(令和7年)後期放送で好評を博しているNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。このドラマの主人公(男女)のモデルは、若槻公や岸博士と同郷で一回りほど年長であった明治期松江の作家・小泉八雲(こいずみやくも)(Lafcadio Hearn)6とその妻・セツ。
そこでは、幕末から明治にかけての西洋化(Globalism)で急速に時代が移り変わる中で、人々(下級武士層/没落士族)の暮らしや社会の価値観が変容する(化ける)様子が描かれている。
とりわけ主人公の女性とその家族が松江の城下町において、(主人公二人の結婚前)大橋川を挟んで北側(橋北地区=松江城を眼前に望む上級武士中心の居住区)でなく南側(橋南地区=寺社や町人・鉄砲足軽中心の居住区)に住まい、日々の暮らしに甚だ困窮するさまは、同じく橋南地区である雑賀町(さいかまち)出身の若槻公や岸博士のそれと重なる。
なお、ドラマで主人公女性が訪れる東京の下宿先に登場する、東京帝國大学生(松江出身)の「若宮」は若槻公「根岸」は岸博士がモデルと思われる。
本書は大きく、筆者の家系・系譜を綴る第一部と、現代社会を検証・考察する第二部からなる二部構成としている。前者では原点を探り血縁を辿りながら歴史的・伝統的な価値観を再確認する内容であり、後者は前者によって確認された伝統的価値観に立脚した、昭和・平成・令和の状況分析、時代考察を展開するものとなっている。