ようやくたどり着いたのは、細長い四階建ての古びたビル。まだシャッターはおりていた。その小さな入り口が、これからの人生の扉になるとは、その時はまだ知らなかった。
扉の前に立つと、足がすくんだ。本当にここでよかったのか?
こんな格好で来て大丈夫だろうか? 小学校三年生の頃一年間バイオリン教室に通っただけだが……。
頭の中で問いがぐるぐる回る。でももう、電話はかけてしまった。
時間が来てシャッターが上がった。
中に入るとそこには、外の世界とはまるで空気の違う空間が広がっていた。
木の匂い、ニスのような香り、静かな機械音。時間がゆっくりと流れているような、不思議な空間だった。
恐る恐る――まさにその言葉通りに建物の中へ一歩を踏み出した。
部屋の左の壁際が二十センチほど高くなっており、コントラバスを展示するための場所になっていた。そこに面接用の机と椅子が用意されていた。
事務所の奥では、二、三人の人たちが黙々と作業をしていた。誰もこちらを見ない。だがその無言の空気が、かえって緊張を煽った。
声をかけるタイミングがつかめないまま立ちすくんでいると、二階から若い男がものすごい勢いで駆け下りてきた。まだ三十歳そこそこのように見える。
「君が、電話してくれた人かな?」
緊張で固まっていたわたしに向かって、その青年はまっすぐに目を見て言った。
面接のあと、彼は言った。
「よし、その目が気に入った。明日から二階で作業してもらおう。まあ、しばらくやってみてよ」
それが始まりだった。
後で聞いた話では、わたしが面接を受けたのは六人目だったという。
「才能がないと思ったら、すぐに首にしてください」そんな覚悟で受けた面接だった。
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