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Chapter 1 New Yorkで遭遇したトイレの神様

トイレ

海外のトイレは日本に比べてかなり汚いです。

日本のトイレが綺麗すぎると言えるかもしれませんが。イギリスの学生寮のトイレにも、基本フタがついていない便器が並んでいました。ですのでアメリカでも期待はしていませんでした。

ご存知の方も多いと思いますが、ウォシュレットなんて快適なものは存在しません。

日本への一時帰国の度に「あ、そうか、便座って冷たくないんだった」と思い出すものです。一時帰国している日本人がよく口にする言葉です。

むこうへ戻ると日本のトイレの快適さが愛おしくなるものです。ま、数日もすればそんなこと忘れてしまうのですが。

ということで我々は、この安い宿泊施設にあるトイレも相当汚いんだろうなという感じで全く期待していませんでした。

ところが、トイレに入ってみてびっくりしました。え? なんだこのきらびやかさは! 高級ホテルの控室のような空間なんです。

しかも入ると同時に、とてもフレンドリーな"Hi,How are you doing? You alright?"

なんとも温かいWarm Welcomeを受けたのです。

その声のする方を向くと、きちんとしたスーツに身を包んだ、上品そうな五十代くらいの黒人の男性がにこやかにこちらに顔を向けていました。

本当に愛想の良い表情で、洗面台の周りをふきながら僕に話しかけています。その目の前にある大きな鏡はピッカピカ。照明もキラキラ。本当に気持ちの良い挨拶で、うわぁずっとこの人と話していたいなぁという気持ちにさせる雰囲気が体全体からにじみ出ていました。

あまりにも想像と真逆の空間に入り込んだ僕は絶句しました。

洗面台の近くにチップを入れる空き瓶が目に入りました。あ、なるほど。このトイレはチップ制なのか。

ロンドンでもそうですが、ヨーロッパの国々では公衆トイレはお金を払って使用するところがほとんどです。お金を払わないとトイレに入ることすらできないのがほとんどです。

「ここもそうなんだ」

その空き瓶には、小銭だけでなく多くのお札が入っていました。お札と言っても1ドル札中心だったのかもしれませんが、とにかくチップの瓶にしてはたくさん入ってるなぁと思ったのを記憶しています。

もちろん僕もチップを入れました。正直いくら入れたのかまでは覚えていませんが、とにかく小銭では失礼だと思ったことは覚えています。そんなレベルの仕事ではないことは理解できましたから。

この人がJanitor(清掃員)なの……。なぜスーツなんだろう。具体的には思い出せませんが、他にも二言三言会話をしました。

トイレから出る時もとても爽やかに"Have a nice day!"。

僕のチップへのお礼も忘れずに丁寧に、ずっと笑顔で、ちゃんと目を見て、まっすぐ立ってきちんとした挨拶なんです。こんな若造のアジア人の僕に対してです。

とても変な話ですが、このトイレに来て良かったなぁという、晴れ晴れとした気持ちで出て行く自分がいたのを覚えています。

瞬時に感じとったのは、教会に通っている人なのかなぁという雰囲気です。同じクリスチャンでも育った家庭環境によって大きく違いますが、きちんと毎週日曜日に教会へ通っているreligious(信仰心の厚い)な家庭出身の人物のような印象を受けました。

人種や年齢、性別に関係なく、誰にでも公平に丁寧に愛情を持って接するという、見せかけではない姿勢が確かにありました。

その後友達とはもちろん「何あの人? すごくない?」

「見た? なんだあのトイレ!」です。

後にも先にもあんなピッカピカなトイレを海外で見たことがありません。