退院

やっと退院する日が来ました。長い、長い闘いでした。

朝の検査のあと、点滴用の注射針が抜かれ、医師の訪問巡回が終わります。私服に着替え、あとは家で飲む薬と入院・手術費の請求書が来て、支払いが終われば自由です。

手術していただいた副担当医師が来られましたので、私が、

「カツ丼が食べたいので、帰りに食べてもよいですか?」と聞きましたら、あっさりと、

「よいですよ」と言われました。

この副担当医師とは、次の入院でまたお会いすることになります。 退院する日の体重は、63kgまで落ちていました。大人になってから、一番スリムだった高校時代の体重と同じです。でも、若さが違いますから、身体全体の筋肉はゲッソリと落ちていました。

総合病院の帰り、女房とカツ丼を食べに行きましたが1/3も食べられません。

(カツ丼を食べても大丈夫だなんて、さすがに医師はよくわかっていらっしゃる)

それで、父親のことを思い出しました。

父親は胃がんで他界しました。それも私と同じスキルス胃がんです。父親の場合は、すごい量の吐血をしたそうです。

すぐに救急車で医大病院に運ばれて緊急手術を受けました。その後家族への説明があり、医師から、

「あちこちに転移していて余命3ヵ月です」

と告げられました。医大病院でも治る見込みがないので、傷口が落ち着いてから自宅近くの個人

病院に転院させられます。その個人病院へは、私が車を運転して連れて行ったのですが、父親は、

「蕎麦が食べたい」と急に言います。 蕎麦屋に入り、温かい蕎麦を注文しました。父親は、

「幼児が使う小さな茶碗でよい」

と言います。でもそんな小さな茶碗でも全部食べられませんでした。

父親は67歳で他界しましたが、私は61歳でスキルス胃がんを発症しました。

そんな昔を思いながら、帰途に就きます。

退院してからは自宅療養です。まだしばらくは会社には行けません。

貧血ぎみでしたので病院からもらった造血剤と、胃液が逆流するのを防ぐ薬を服用しておりました。これは、胃切除手術の後遺症を和らげるための薬です。

ちょっと女房と外出したときも、貧血のせいかめまいがして、その場に座り込みました。貧血を解消するには、ずいぶん時間がかかります。

さてさて、これからが大変です。体力が回復したら、転移・再発を防止するための抗がん剤服用が始まります。

すでに、開腹手術の後遺症による苦しみは始まっていました。

まだまだ、スキルス胃がんとの闘いは続きます。

<星野 裕作『スキルス胃がんからの生還』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋>

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