老人ホームは、寝たきりや死を想起させるので、「そんなこと、考えたくない」と敬遠され避けられがちです。しかし、ネガティブなことからしばし逃れることはできても、逃げきることはできません。人はどこでどのように過ごそうとも、必ず日々老いて、死に近づいていっていますので、いずれは無視できなくなるのです。

私たち夫婦の知人、友人も「元気だし、まだその気にはなれない」と先送りしている人が殆どです。しかし、逃げ続けているうちに、転倒・骨折、脳梗塞や心筋梗塞、がん、認知症などを発症し、要介護状態になってしまうかもしれません。

その挙句、介護する子供の都合で、現状では、「親捨て山」としか言えないような老人ホームに入れられてしまうことがあるのです。おひとりさまは介護する家族がいないから、仕方なく入ることもあるでしょう。そうなりたくなければ、まだ元気なうちに老人ホームと本気で向き合うよう、彼らに勧めたいと思いながらも、お節介できないもどかしさを感じていました。

そんな思いを抱いていた頃に、遺言書作成の件で公証役場の公証人の方に当老人ホームにおいでいただいたことがあります。そのときのまさかの嬉しい体験がこの書を著す契機となりましたので、まず、それをお伝えしたいと思います。

その50歳代と思しき公証人の方は約束の30分前にホームに到着し、ロビーで待機していました。その間にじっくりとこのホームを観察していたのです。