「出られるよ。わからないことはフロントでいろいろ聞けば大丈夫」
「わかりました」
「19時に、俺がホテル行くからそれまで部屋でテレビでも見てればいいよ。夕食はごちそうするよ。何が食べたい? 焼き肉? 寿司?」
「私、カレーがいいです」
「えっ? カレー? いいけど、もっといいもの食べようよ」
「私、カレーが一番好きなんです」
と恵理は言ったが、本当は焼肉が一番好きなのだ。
焼肉屋は、父が泥酔海難事故前のこと、仲の良い家族だった頃に、父と母が八丈島の焼肉屋に連れて行ってくれた。とても楽しくて美味しくて……しかし、その泥酔海難事故後に家族が崩壊してから焼肉の体験が逆に辛くなるので敬遠した。
高いものを初めて会った人からごちそうしてもらうのも気が引けた理由だ。恵理は、北崎に言われた通り、15時過ぎにナチュラルホテルにチェックインした。初めてのビジネスホテルだったが、フロントのスタッフが丁寧に説明してくれたため、落ち着くことができ、テレビを見ながら約束の19時を待った。
北崎は律儀な男だ。19時より5分前に着いた。恵理の部屋の内線電話が鳴った。
「もしもし、小川です」
「小川様。お連れの方がフロントでお待ちです」
「はい、すぐに行きます」
信頼する野口からの紹介とはいえ、恵理にとっては初めて会う男性だ。しかし、恵理は持って生まれた性格により、警戒心を持たなかった。父親に性的DVされても男性不信は芽生えなかった。それよりも、東京ライフに気持ちが弾んでいた。
「あれ? エレベーターどこだっけ?」
同じような部屋が並んでいて方向音痴になった。すぐにフロントに行きたいので少しイラついた。