地面から空に向かって羽ばたけるか
小さい頃からよく見る夢の一つが「空を飛ぶ」ことだ。「空を飛ぶ」夢自体は珍しくないだろう。経験者は世の中にそれなりにいるようだ。
けれどあるとき私は考えた。「気が付いたら空にいた」という状態を、本当に飛んだと言えるだろうかと。そうじゃなくて、地上から好きなときに浮き上がって空を飛びたい。
自分の意志で自由に飛び回り、好きなときに地上に舞い戻りたい。鳥のように。
地上にいて、「今から飛んで見せてください」と言われたらどうするだろう。
恐らく多くの人は鳥の見よう見まねで両手を体の左右で上下に振ってみるだろう。予想どおり体はびくともしない。
もっと高速で振ってみたらどうか。やはり体はびくともしない。腕が疲れて「やっぱ、無理だよね」とあきらめてしまう。羽根も羽毛もない人間が、細い左右の腕だけで空気を押し下げ、体を浮かせるなんて不可能なのだ。
両腕に羽を造ったらどうだろうと人類は考えた。紙だと軽いけれど、一度上下しただけで
破けてしまう。壊れない素材に替えたら重すぎて腕を振れないし、浮力を邪魔してしまう。滑空するだけならパラグライダーもあるが、地上から飛び立つことはできない。
かつて人類が進化の過程で通ったはずの鳥類の偉大さが身に沁みる。
でも待てよ、水の中ではどうだろう。
両方の掌を下に向けて一度押すだけで、体はふわりと上昇するではないか。
私は小さいころから水泳が得意ではなかったからこそ「なんで水の中では簡単に体が浮くの?」と思っていた。
クロールにしても小さな面積の掌で水をかくだけで「なんでこんなに速く進めるの?」と思っていた。
「両足を上下にバタバタするだけで、どうして前に進むの?」と不思議に感じたことはないだろうか。
パラリンピックの水泳競技を見ていたら、片腕が半分までしかない選手が、両腕のある選手に勝って金メダルを手にしていた。そんなことある? 左右のバランスを取るだけでも難しいだろうに。
人間には現時点で不可能なこともあるが、最初から無理と決めつけることで不可能にしていることも多いのではないか。
昨日できなかったことが、今日できるかもしれないし、明日は可能かもしれない。
できないことの全てに付き合っている余裕はなくとも、これだけはと思えばとことん信じてトライしてみてもいいのだ。
次回更新は5月20日(水)、11時の予定です。