「でも私は何か嫌な感じがするわ」
そもそも外国人技能実習生を受け入れて事業を拡大したのは、後妻の浪費癖に困ったからだが、そのことに対して彼女は無頓着である。とにかく外国人、特にアジア系が嫌いなのである。
広沢社長としては会社が発展したのは技能実習生のおかげだと思っていたので、その意見を最初はあまり気にしていなかったが、日常の会話の中で次第に洗脳されてきて、最近ではかつてのようにアジアからの技能実習生を大事に思うようなことがなくなったという。
「しかし娘の早苗さんに対しては、技能実習生のことを賛美しているようだけど」
吉岡は尋ねた。
「それは早苗さんが、技能実習生が大好きだからさ。広沢社長は娘には甘いからね」
同僚はこう答えた。
一方で早苗さんは勉強と部活の合間に、月に2回程度、父親の会社の技能実習生にボランティアで日本語を教えていた。
そのことを知った吉岡は自分が教員免許を持っていたこともあり、早苗さんが実習生に日本語を教えていることに興味を持った。
やがて早苗さんの開く日本語教室にしばしば出入りするようになった。言語は英語と日本語と異なるが、吉岡は大学で学んだ外国語を教えるノウハウについてメールや直接会ったりして意見交換をし、早苗さんに日本語の教え方全般についてアドバイスをするようになった。
早苗さんもそのことを大変喜んでおり、日本語教育については吉岡を頼りにするようになってきた。
「実習生はよく、現場で怒鳴られると言っていますけれど、いじめられているのですか」
「そういうわけではありませんよ。『危ない』とか『どけ』とか『早くしろ』とか、危険が迫っている時や急を要する時に、いちいち丁寧に話しているひまはありませんからね。そのことは実習生も自国で学んできたはずですが、徹底されていないのかもしれません」
「それならいいんですけれどね」
「彼等には難しいことを言ってもわからないことが多いですから、なるべくやさしい日本語を教えて、最低限のコミュニケーションを会社や地元の人と取れるようにする必要があります」
「ありがとうございます。勉強になります」