【前回記事を読む】彼女が他の男に“女の顔”を向けたのを見てしまった日……帰宅後いつもどおり誘ったら、初めて「イヤ」と手を振り払われて…

「火点し時」 

家に着いたのは零時過ぎだった。両親はもう寝ている。ダイニングへ行くと風呂上がりらしい兄がいた。

「何だ、泊まらなかったのか。風呂入るか」

「ああ……」

話すのは面倒くさかった。まだ静子の態度にムカムカしていたのだ。

「聞いたろ? 明後日俺の彼女が来るって」

「うん、日曜は仕事だから……明日は休みなんだけど。その内に。おめでとう」

「うん」

これで会話は終わった。

 

次の日静子にラインしたが、返答はなかった。昨日はつい、あのサックスの男が印象深かったから妙な勘繰りをしてしまったが、ひと晩経つと、それは関係なくて実は自分の浮気を勘付かれたかも知れないという考えに至っていた。

あんな、振り払われるなんてこと、初めてだったのだ。まして帰れだなんて。疲れていたとは言え……。静子の方から連絡してくると思ったのに、梨のつぶてだ。面白くない……。

昼前にリビングに下りると母が食事を用意していた。

「優人、おはよう。なんか久しぶりね、休みの日うちにいるの」

「うん……」

休日はいつも静子のアパートに入り浸っていたっけ。家にいてもつまらないし。

焼き鮭に味噌汁に漬物、煮物と卵焼き、ちゃんとした和食が用意されていた。母はいそいそとお茶を淹れた。

「いただきます……」

母は優人の前の席に座るとお茶をすすりながら話し出した。

「さっき正人もお父さんも出かけたけど、夕飯なら全員揃いそうだから、お嫁さん連れて来ることになりそうよ」

「明日じゃなかったの」