「今日ならお前がいるみたいだから……変更することにしたようよ。六時には帰ってきてね。どこか出かける?」
「うん……ちょっと。分かったよ」
面倒だけど仕方ない。
「鍋にしようかね、もう十月だしいいよね。おかわりは?」
遅い朝食を済ますとぶらぶらと外へ出た。特に用はなかったが、家にいて母の相手をするのもな……。優人の足は自然に静子のアパートへ向いた。
母は優人を溺愛していた。優人が生まれたその時から、父も正人も二の次になったそうだ。そして父と兄はよく似ており、口数少なく無骨な類いだった。それに対して優人は女顔で愛嬌があった。母は優人のすることをほぼ否定することなく甘やかした。それはありがたくも時に重く、鬱陶しいものだった。
実際父も正人も、昔から優人に深く関わろうとしなかったのだ。家で会話するのはもっぱら母と優人だった。成績は常に正人の方が上だったし、ただの店員の優人に対してお堅い信用金庫に勤めようとも、母はあまり正人に構わなかった。兄が自分を好かないのは当然だ。
そんな白々した家庭に冷めてはいたが、まあ楽だし、出ていくなんてことになったら母が黙っていないのは目に見えてるし、彼女は近場で一人暮らしときたら、わざわざ離れる理由もなかった。正人が出ていくのなら尚更だ。
アパートに着いたが、もちろん無人だ。よくある二階建てアパートの一階の1DK、居心地は悪くない。
携帯を見ると、静子からの返事はなく、代わりにみどりからメッセージがあった。異動することになった、とある。週明けに会う約束をした。ぼんやりとゲームをしたりして三時間ばかり過ごした。この居心地のいい部屋を失くしたくはなかったし、静子とはいつかちゃんと一緒になるつもりで付き合ってるんだ。
仕事中だからラインを返せないのは分かるが、いつもなら休憩時間に返ってくるのに……。しかも、ちょっと気まずく別れたんだから、向こうからあっても良さそうなのに。バレるようなことを、何かしただろうか。優人はこの二ヶ月の記憶を探ったが、思い当たる節はなかった。会う回数がちょっと減ったくらいだ……。
少しばかり昨日のサックスの男には嫉妬したかも知れない。色男っぽかったからな。静子もそりゃ憧れくらいするか。でもあんなおっさんは問題じゃないんだ。それよりもみどりのことを勘付かれたかも知れないから、そっちの方がまずい。ちょっと静子との仲に安心し切っていたのかも……。けどみどりはじき異動するんだし、まだ何とかなるだろう。
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