「そうですね、こちらへどうぞ。今日の演者、初めてですよね? 最近人気なんですよ」

案内された端のテーブルに着くと、ちょうどその演者らしい男がサックスを手に小さなステージに出てきたところだった。確かに金曜の夜は一番の人気枠だ。演奏は八時と九時半からの二回ある。まだ十分あった。

「オーダーを……」

メニューを見ていると、静子が先ほどの演者の男と話しているのが目に入った。……ん?

少しばかり気になった。静子の表情が……何とも優しい。

「しず……」

少し声を出すと、静子が振り向いた。優人を見ると、ちょっと慌てたようにサックスの男から離れてこちらへやって来た。

「優人、来るなら連絡してよ」

「ラインしたろ?」

「そうなの、仕事中は見れないから……。永村さん、お久しぶりです」

「うん、お邪魔してます。あの人? 最近人気あるんだって? サックス一人でやるの?」

静子は嬉しそうに頷いた。

「ええ、一ヶ月くらい前から出てるんです。うまいんですよ。ファンがたくさんいて」

一ヶ月前か、みどりとの付き合いが二ヶ月になるから、そりゃ知らないはずだ。

「しず、注文先にしてくれ」

「あ、はい」

静子は伝票を取り出した。何だか気になるような……。さっきも最近優人には見せないような表情をしていた。

 

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彼女が他の男に“女の顔”を向けたのを見てしまった日……帰宅後いつもどおり誘ったら、初めて「イヤ」と手を振り払われて…

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