【前回記事を読む】その女性人事が英語で話し終えると、新入社員が“ある質問”をしてしまい…ざわりと空気が揺れ、女は目を見開いた。
第2章 粛清
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翌朝、柊は埼玉県・所沢営業所へと車を走らせていた。空は澄みきっているのに、胸の奥だけが重く沈んでいた。
この営業所には、向井という社員がいる。かつて営業所長の横領を内部告発した男だ。そのときは、加納と柊が裏から動き、向井の協力によって事件は表沙汰になる前に収束した。以来、向井は〝加納の目〟として、営業所内の異変を静かに拾い上げてくれていた。
だが、営業所の空気は一変していた。倉庫で片付けをしているという向井をやっとの思いで見つけた柊は、彼の言葉に耳を疑った。
「急に異動が決まって……」
「異動? なんでこんなに急に?」
向井は柊に向き直り、重苦しい顔で口を開く。
「福島の新営業所の開設準備要員だと」
「……左遷か」
「粛清人事だと思います。私は前のこともあって、加納副社長派閥と思われているはずなので。会社は加納派を一掃するつもりでいるはずですよ。僕みたいな末端まで処分しようってことは、会社は本気です」
柊は言葉を失った。
「悪いけどもうこれ以上、協力はできないです。私にも家族がいます。この年で転職なんてとてもできないし、この会社で食ってくしかないので」
それは、拒絶ではなかった。生きるための選択だった。
向井の件を皮切りに、社内には粛清の嵐が吹き荒れた。柊が向井と会った翌日の朝には、人事部長・松岡のプロフィールが社内ポータルから消されていた。
加納が生前、内部通報の窓口強化で相談していた相手だ。昼には『社外不適切行為により懲戒解雇』の一文のみ発表された。あとで聞いたところでは、部下の女性社員との社内不倫が発覚し、激怒した東雲が処分を決めたという。