続いて総務部長代理の堀内。加納に稟議の経路を教えてくれていた人物だったが、翌週には部下へのパワハラが問題となり、降格のうえ、福井の営業所に左遷された。
執行役員の岸本は、与信委員会で神代案件の保留を口にした数日後、横領の容疑で刑事告発され、こちらも懲戒解雇された。
いずれも標的となったのは、加納が聴き取りを行い、柊が接触を図ろうとしていた者ばかりだった。つまり柊が動き出す前に、危険な存在は排除されたということだ。覚悟していたとはいえ、予想以上の速さに柊はお手上げ状態だった。さらに役員からは柊宛にメールで短いメッセージが届いた。
「役員会の決定です。今後、誰といつどこで会うか、事前申請が必要になりました」
短い。だが、はっきりしていた。
――監視する。
――動くな。
返信しても、返事はない。柊はパソコンの画面を見つめたまま、ゆっくりと息を吐いた。これは警告ではない。宣告だ。
その日の夕刻、柊は再び「鉄心堂書店」の引き戸を開けた。保常はこの前と同じように机の前に座り、本を読んでいた。柊は歩み寄り、声をかける。
「粛清が始まりました」
そう言うと、保常は顔を上げ、柊を見る。
「思ったより早かったな。つまりそれだけ深く奴が食い込んでるってことだ」
「神代の周辺はどうですか?」
保常は机の端に置いたA4サイズの封筒を差し出す。受け取った柊は中から書類の束を取り出した。保常は柊が目を通すよりも先に話し始めた。
「神代ホールディングス――2007年設立の持株会社。表の顔は総務・人事・経理の管理会社だ。従業員は50人前後。表面上の売上は大したことはない。だが周りに別の財布らしき会社が2つ3つある。電設機器や住宅設備の販売・請負。拠点は埼玉を軸に東京、神奈川、千葉、宮城、愛知……。特徴だけ見ればどれも普通の会社に見える」
保常の説明を聞きながら柊は急いで書類に目を走らせる。
「裏はどうです?何か材料は?」
「はっきりしたネタはまだつかめてない。だが役員履歴の回転が速いのと、3年で名義変更が続いている。債権の付け替えも見えるしな。神代本人は一切表に出てこない。飲食の名義貸しも見つけたが、こいつは別ルートで当たってみる」
書類を見ていた柊の手がピタリと止まる。
「これは……」