【前回記事を読む】実態は「同族経営」だった。しかも非同族だった副社長が不審な死を遂げると、社長はなぜか「彼のことは忘れよう」と言い始め…

第2章 粛清

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「お久しぶりです。最近、お見かけしてませんでしたね」

「お父様から副社長の件で呼び出しがありまして…‥」

「加納さん、残念でしたね。顧問は会社に顔を出す機会も減って、少し寂しいお気持ちですか?」

「そういう意味では副社長しか知らないこともたくさんあって大変ですよ。そういえば、副社長の担当してた案件がどんなものだったか、ご存じありませんか?」

「僕がですか?」

「あれ? てっきり副社長が相談しているかと思ったんですが」

「加納副社長とはいろんな話をしていたので分かりませんが、よく過去にさかのぼって資金の流れをしつこく聞かれてました」

柊の目が輝く。加納は何も知らず言いなりになっている次期三代目を情報の窓口にしていたはずだ。

「いや、そうでしたか。失礼しました。私の勘違いでしたね。それでは」

出ていこうとする柊を一馬が呼び止める。

「親父、いや社長からも言われているように加納さんのことは忘れ、余計なことをしないほうが身のためだと思いますが」

「ご忠告ありがとうございます」

柊は一礼し、喫煙室を出ていった。

8階でエレベーターを降りた柊は、無言で奥へと歩を進めた。

ガラス越しに広がる大会議室。壇上には一人の女が立ち、壇下には神妙な面持ちの新入社員たち――20人あまりの若者が、一言一句を逃すまいと耳を澄ませていた。

東雲悠子(しののめゆうこ)。社長の長女にして、次世代経営陣の一角を担う存在。好奇心旺盛でキャリア志向が強く、国境を越えた環境で勉強したいと高校からアメリカに渡った。素晴らしい成績で大学を卒業し、帰国後は総合商社に入社したが、配属先が気に入らず早々に退職。その後、父親の会社に入り、人事担当としてグローバルな視点からあれこれと指導していた。

その語り口には、若者に寄り添う柔らかさと、圧倒的な自己肯定感が同居していた。