「……ですので、いかにグローバルスタンダードなコンセンサスをとっていけるか、つまり“Think beyond your silo”ということです」

流暢な英語を織り交ぜながら、悠子は大げさな身振り手振りをしながら話す。その姿はりんごマークのCEOを意識したようにも見える。

柊はガラス越しに立ち止まり、しばし様子を見ていた。流行をさりげなく取り入れたファッション、背筋をまっすぐ伸ばした堂々たる所作、会議室の空気は、彼女を中心にピタリと張りつめていた。

――演説は流石(さすが)だ。だが、届いているか?

新人たちは頷きもせず、反論もせず、ただ無表情に座っていた。あれほどの言葉数を浴びせられて、誰一人笑わない。柊はそこに妙な寒さを感じた。

そのとき、一人の若い男性社員が手を挙げた。

「すみません……。それだと、結局、僕たちは何をすべきなんでしょうか?」

ざわりと空気が揺れる。

素朴でまっとうな問い。だがそれは、この会社の誰もが口にしない〝核心〟でもあった。

――いい質問だ、若者。

柊は心の中で呟きながら、答える悠子の表情を注視する。

悠子は一瞬目を見開き、そしてにこりと笑った。

「素敵な問いですね。でも〝すべきこと〟を決めるのは、あなた自身です。それが〝プロアクティブな思考〟ってことなんです」

拍手が起きることはなかった。

ただ、また無音の時間が戻ってきた。

柊はふうと息をつき、研修が終わるのを待った。新人たちと一緒に会議室から出てきた悠子に、軽く声をかける。

「お疲れさまでした」