柊は必要以上に豪華な本社の内装を思い浮かべる。このところ続く地方営業所の出店ラッシュも腑(ふ)に落ちた。実際あの改装にどれだけの金が使われているのかと思うとぞっとした。
「東雲は神代との長く深い付き合いで、もはや手遅れになっていた。それを加納さんが気づいて裏をとっていた。ということですかね」
「今の反社はな、昔と違って頭が切れる。いや、〝怖い〟の意味がまったく変わったと思ったほうがいい」
保常は低く唸(うな)るように言った。
「今時は、ナイフも鉄パイプもいらねぇ。手口は見えねぇし、証拠も残さねぇ。会いに来たってニコニコしてやがるし、肩にも背中にも刺青(いれずみ)も入ってない。だが――気がついたときには、もう懐に入り込まれてる」
柊が用意した手土産を眺めながら保常は続ける。
「そんな〝令和の反社〟が当たり前のように社内にいて、いつの間にか金の流れを掌握してる。目立たず、だが確実に吸い取る。会社の上層部が気づいたときにはもう遅い。連中はその会社丸ごと、自分の資産みたいに扱ってるからな」
柊が顔をしかめると、保常はさらに声を低めた。
「この前死んだ大手流通会社の会長もそうだ。〝名物〟だなんだって祭り上げられていたが、最後はあの男に取り込まれた。死に際に、誰も聞いたことのない〝最新の流通システム〟に多額の出資をさせられたって話だ。親族が騒いでもな、もう金は戻らねぇ。死人に口なし。システム会社はきれいに夜逃げだよ」
保常は煙草(たばこ)に火を点(つ)け、一息吸ってから吐き出す。
「暴力沙汰や警察にしっぽつかまれるのは、いわゆる〝かけ子〟や〝出し子〟――。末端の使い捨ての駒ばかりだ。リスクを負うのは現場だけ。上にいる『設計者』たちは、裏と表の境界線を自在に消し去る。自分の手は一切汚さず、椅子に座って指先を動かすだけで、数億単位の金が自動で転がり込む仕組みを作り上げちまってるんだ。
特に神代のような手合いは、名門国立大を卒業し、MBAまで持っている。語学も堪能、身のこなしは洗練されたエリートさんそのものだ。
俺はスマホを使うだけでやっとだが、奴らは小さい電子機器を007みたいに使いこなして、そこらの政治家よりずっと説得力のある言葉を並べる。おまけに容姿端麗とくれば、誰がそいつを『悪党』だと疑う? どっからどう見ても、時代の最先端を走るビジネスマンにしか見えねぇよ」
保常の声が、さらに低く沈む。
次回更新は5月5日(火)、8時の予定です。
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