【前回記事を読む】商社勤めの女性27歳がマンションから転落…彼女は違法スカウトグループの関係者だった。明らかに事件だが、“自殺”として…

第1章 静謀

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「女性はグループの背後にいる男とトラブルになっていました。その交際相手……与党の大物政治家の孫です」

点と点がつながった。他殺の線で一気に突き崩すべく、捜査員たちが勇み立ったそのときだった。

「捜査は打ち切りだ。本件は自殺として処理する」

組対課長が開口一番打ち切りを言い渡してきたとき、柊はその言葉に思わず耳を疑った。

「そんな馬鹿な! 明らかに事件性が高いんですよ。司法解剖すればもっとはっきりするはずです。自殺なんてあり得ません!」

噛みつくような勢いで迫る柊を、課長は憐れむような目で眺める。

「青いな、柊。もう少し賢くなれ。分かるだろう? 上の判断だ」

上の判断?

「……人が一人、死んでるんです」

絞り出すように告げる柊の言葉を無視して、課長は捜査員たちに向かって

「聞いたとおりだ。本件は自殺! それで報告書を提出するように。以上」

と声を荒らげ、足早に部屋を出ていった。

報告書の〝死因〟の欄を記入しようとして、ふと手が止まる。組織に反発すれば飛ばされる。異動が原因で家庭が崩壊した先輩もいた。降格され僻地の駐在所に飛ばされた同僚もいた。

死因欄に丁寧な字で記入する。――〝自殺〟。

そして翌日、柊は辞表を提出した。俺がこの腐った警察を変えてやる。心の内にそう誓っていた。

***

柊はもう一度恵子から託された加納のメモ帳を読み直していた。

顧問として見てきた関東エナジー開発は、あらゆる面でルーズだといっていい。手続きが緩く、数字の流れにも曖昧な箇所が多い。ファイルには会計関連の書類も交じっていた。柊にも見えない〝何か〟が加納には見えていたに違いない。不謹慎かもしれないが、久々に血が湧き立つ感覚を柊は覚える。

見上げる夜空の一つ星が、「頼む」と語りかけているように思えた。