チクッ。
「今のが1番痛いです」
医療界で2番目に信用できない言葉が出た。
数秒後。もっと痛かった。
「さっきより痛い」
「追加しました」
「話が違う」
看護師が笑いをこらえている。
感覚が鈍くなっていく。不思議な感じだ。触られているのは分かるが、痛みは遠い。
「いきます」
バチン。変な音がした。
「今の何ですか?」
「器具の音です」
「銃みたいでした」
「似てます」
似てます、じゃない。
体の中で何かが起きた感覚がある。痛くない。ただ、“侵入された”という感覚だけが残る。
「もう1回いきます」
「え、複数?」
「基本2回」
聞いてない。
バチン。
終わった。
「はい、終了です」
あまりにもあっさりだった。
恐怖は上映時間が長いのに、本編は短い。
問題はその後だった。
「6時間、絶対安静です」
「絶対?」
「絶対」
ベッドに戻された。仰向け固定。寝返り禁止。トイレ禁止。上半身も起こせない。
人は「動くな」と言われると、動きたくなる生き物だ。
30分で腰が悲鳴を上げた。
1時間で暇が限界を超えた。
2時間で天井の模様を覚えた。
3時間で人生を振り返り始めた。
4時間で後悔リストを作った。
5時間で空想で旅行した。
6時間で悟りに近づいた。
尿瓶デビューも、この日だった。
「使い方分かります?」
「分からない人生でいたかったです」
「みんな同じこと言います」
人類共通コメントらしい。
プライドは徐々に削られる。だが同時に、どうでもよくなる。これが入院適応能力だ。
次回更新は5月11日(月)、16時30分の予定です。
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