【前回の記事を読む】むくみ、体重増加、尿量減少――気のせいかと思ったが、母に言われるまま病院へ行くと医師の口から…
第一部:むくみの正体
スマホで「急性腎不全」を検索する。
やってはいけない行為ランキング第1位を、入院初日に達成した。
怖い言葉ばかり並んでいた。
【合併症】
【不可逆】
【慢性化】
【透析移行率】
そっと画面を消した。
天井を見た。白かった。
その白さが、やけに遠く感じた。
午前2時。隣の“むくみ村の村長”が突然言った。
「眠れないだろ」
「はい」
「最初はみんなそう」
「慣れますか?」
「慣れるよ。ここは人間観察が面白い」
「観察?」
「明日からキャラが増える」
病棟をそんなふうに表現する人を、私は初めて見た。
「ここはね、人生の途中下車駅だ」
うまいこと言うな、と思った。
そして少しだけ、怖さが薄れた。
翌朝、主治医が告げた。
「腎生検、やりましょう」
「それは?」
「腎臓の組織を少し取ります」
「どこから」
「背中から針で」
さらっと言うな、と思った。
「痛いですか?」
「運次第です」
医者の言う“運次第”ほど信用できない言葉はない。
だが、その検査で病名がほぼ確定するという。
「原因を突き止めましょう」
私はうなずいた。
この時はまだ、自分が長期戦の入口に立っただけだと知らなかった。
第二部:針は静かに刺さる
腎生検は「ちょっとした検査です」と説明された。
医療の世界で“ちょっとした”という言葉ほど、信用できないものはない。患者側の辞書では、それはたいてい「心の準備が必要」という意味になる。