「千江美ちゃん。次にいつ行く?」

「えっ?」

「ジム。新山さんのボクシング見学。早いほうがいいと思うよ」

机に頬杖を突きながら、次の授業の宿題を考えている私にサワが問いかける。

「何、何で?」

「初めて見たけど、プロボクサーって格好いいよね。それに、迫力があって感動しちゃった。もし他にも女の子が来てたら、新山さんを一回見ただけで虜になっちゃうよ。ライバルが増える前に千江美の存在をアピールしなきゃ」

「確かに。そうなったら困る。そうなる前に行ったほうがいいよね。私は、新山さんしか目に入らないから。ボクサーを知って周りの男子があまりにも子供でさぁ」

「そうだね。クラスの男子じゃ比べる対象が違い過ぎるね。あれから、ファンレター出すって言ってたでしょう」

サワは私の顔を覗き込む。

「出した?」

「うん。出したよ」

「それで、返事は?」

「来ないよ〜。返事なんて最初からくると思ってない」

私は淋しそうに苦笑した。サワは、

「そうかな? 意外と距離が近い気がするけど……。最初から諦めないで頑張ろうよ」

頼もしい。私は、ジムに見学に行っても話しかけるどころか、まともに見ることもできない。

私にとって新山選手は、雲の上の存在でスーパースターだった。

「私たちが見学に行った後、すぐに新山さん、試合があったよね。勝ったの?」

「もちろんだよ。三対〇の文句なしの判定勝ちだよ」

次の見学は防衛戦からしばらく経ったから、新山選手の時間に余裕があるうちに行こう。

 

👉『六ラウンド、二分十八秒の後で』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】店を畳むという噂に足を運ぶと、「抱いて」と柔らかい体が絡んできて…

【注目記事】「今日、主人は出張で帰ってこないの」ホテルの入口で一瞬ためらったけれど、夫だって浮気をしているのだから私だって…