最後の晩餐(ばんさん)

逮捕の日、18時30分ごろ、俺は普段より早く仕事を終え、職場近くの浜辺で、マリファナの一服に耽(ふけ)っていた。

なんとなく自宅に帰りたくなかったのだ。帰っても誰もいない。あるのは散らかった薄暗い部屋とマリファナだけだ。妻ミサトと、息子の凛太2人は、帰ってきていないだろう。

職場の近くに海があるというのは、とても素敵だ。脈拍と同時に、じわりとせり上がってくるマリファナの酩酊(めいてい)を感じつつ、初夏の生ぬるい風を肌に感じて、そんなに暑くないなと思った。

仕事終わりの開放感がある、とてもいい一服だった。

これが人生最後に吸うマリファナとなった。

この日、持っていたマリファナ・タバコ=ジョイントは、前日に自宅で巻いたものだ。

浜辺でのマリファナ喫煙だったが、はたから見ればタバコにしか見えない。日没前の暗がりでわかるわけがない。ハナから誰も気にしてない。

普段はマリファナを持ち歩くことなどしないが、今朝はなぜか、仕事帰りに海辺で一服したいと思った。テーブルの上にある太巻きのジョイントを、2本引っつかんでポーチに入れて家を出た。

浜辺のベンチに腰掛け海を眺めた。もう日没だ。美しい夕焼けがパノラマ状に広がっている。一服するには最高のシチュエーション。収穫後すぐのフレッシュなマリファナだ。一人でめでたく収穫祭といくか。

ライターでジョイントに火をつけた。やっぱりライターは海外製が一番だ。手に馴染むし、長時間点火しても壊れにくい。

スッと、マリファナ独特の匂いが、鼻腔(びこう)を満たした。ぬるい潮風が肌に触れ心地いい。煙を腹にため、息を止めた。全身にマリファナの煙を巡らせる。呼吸の限界がきたら、鼻からゆっくり煙を吐き出す。

とたんに、体中の神経がゆるむ。“無条件幸福”。自分の体と一緒に夕景も溶けたように歪んだ。

血管にマリファナ成分が流れ込んでくるのがわかる。同時に体がぽかぽかと暖かくなってくる。血液が発熱するような感覚。仕事の緊張で硬直していた精神が弛緩(しかん)していく。

 

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