彼には実の兄貴も居たが、頼れるような兄ではなかった。彼の兄貴も勝也の下で働いていて勝也もよく知っているが、その兄は何の連絡もなく突然仕事も辞めてしまい、家も出て居なくなるような兄だった。

その後、給料だけは取りに来たが、どこで生活しているか分からない状態だった。

何とか兄貴と連絡を取り、葬式には来たが、まるで他人事のようだった。葬式の準備からお坊さんの手配まで、全て勝也が行い、お金も全て勝也が支払った。

火葬後の骨上げの時にも、彼の母親はお金の事ばかり言っていた。勝也は彼が亡くなるまで働いた分の給料を兄貴に渡し、彼の持っていた高級時計も形見だからと兄貴に渡した。

この時計も勝也が最後に借金をまとめた後、ローンで買ったものだ。本人が亡くなっているので残りのローンは払わなくて良かった。

葬儀など全てが終わった翌日、ヒロの母親が勝也の家にお金を借りに来た。紗香は断る事ができず、1万円を渡した。彼は家庭にも恵まれず、結婚も失敗し、彼女にも振られ、新しくできた彼女の父親が亡くなり、何もかもが上手く行かない。

この数年間、ボロボロの状態だったのだろう。

彼が亡くなり20年以上になるが、勝也や彼の友達、その時に居た従業員も毎年命日にはお参りに行っているが、彼の兄貴も母親も一度もお参りには来ていない。

 

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