第1章 『幽霊』と呼ばれる男

1 篠町四丁目交番の面々と幽霊の噂

篠町四丁目交番は、某地方都市の鈍行しか停まらない小さな駅に続く、車がやっと二台すれ違えるほどの狭い通りに面している。

筋向かいにはちょっとした公園があり、住民の憩いの場だ。北に五分ほど歩くと駅やバス停、すぐ南は古い商店街に繋がっていて、結城はこの下町のなんという特徴もない交番、いわゆるハコに勤務している。

ここには結城の他に二人の巡査がいる。一人はハコ長の目高晃、もう一人は結城の三年先輩の洞口広である。ハコ長の目高はとうに出世を諦めた五十半ばの一応巡査長である。

バーコードでずんぐりしたこの男は、一日何事もなく終わればそれで幸せだと思っている無欲な男である。

もう一人の巡査、洞口はいつも何かにつけて文句ばかり言っているか、若い女と遊ぶことばかり考えている。

面倒なことが起こったときは、どうやって逃げるか言い訳するかそういうことだけには頭を使う、それでいていつか刑事になりたいなどと図々しい野望を持っている。

このたびの人事異動であの『幽霊』がこのハコに来ると連絡を受けて、ハコ長は青くなる。ハコ長も変死体を見つける幽霊の噂は聞いていた。

しかしそれ以上に恐ろしいのは、そいつが着任したハコからは必ず誰か一人飛ばされるか、退職に追い込まれるということである。

皆、それを『幽霊の呪い』と呼んでいる。それも今までそいつがいた本町や桜町で『呪い』にかかったのは二人ともハコ長だったからだ。

(わしは呪いをかけられるようなことはしとらんぞ)

そう思いながらも、上司を飛ばすのが好きなのかもしれんなどといろいろ想像し、ハコ長は戦々恐々としている。

洞口は洞口で厄介な奴が来やがる、と顔を歪めた。しかしやって来た結城を見て洞口はなあんだ、とせせら笑った。

まずどちらかと言えば小柄だし、細くてどこか頼りなげでさえある。そしていつも帽子を深くかぶり、俯いてばかりいてなんとも陰気なのだ。そのうえ異常に無口で、業務のこと以外はこちらが話しかけないと一日中でも黙っている。

「苦手なんだよ、無口な奴」

洞口はまたぶつぶつ文句を言っている。つまらないおしゃべりが好きな洞口には結城はどうも物足りない。

 

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