第2章 人生における五つの重要事実と心の法則

3 心の法則

(1)心の法則

①心の法則

人生に重要な影響を及ぼす法則として、例えば、ニュートンの万有引力の法則のように、誰でも知っている自然現象に関する物理的な法則(「物的法則」)がある。この他に、あまり知られていないけれども、人々が知ると知らずに関わらず、心に関する法則(「心の法則」ないし「心的法則」)も確かに存在する。

これに関して、例えば、『松下幸之助の哲学』では、このことが説明されている。そこでまず、彼の哲学の全体像を見てみることにする。すなわち、彼の哲学は、一般的な哲学者のそれと異なり、宇宙観(自然・宇宙)・人間観・人生観・社会観・政治観というように、宇宙観と政治観があるところに特徴がある。

しかも、この宇宙観が中心となり、他のすべてのものと整合性を保っており、それゆえ、人生観などにブレがないところが特筆に値する。また、この宇宙観では、宇宙の法則から説き起こし、通常の「物的法則」のみならず、哲学者があまり明言しない「心的法則」についても、同様に説明しているところが、松下哲学の真髄であろう。

この心の法則に関して、松下幸之助は、次のように述べている。すなわち、「宇宙の法則とは、宇宙根源の力が万物に働く法則であります。これは真理とも呼ばれるものでありますが、さらにこの法則は、実際にわれわれ人間と自然とに働きかけるとき、二つのかたちをとって現れてくる」。

つまり、「第一は、心の法則、あるいは心的法則ともいうべきもので、他の一つは、物の法則、物的法則というべきものであります」(39−40頁)。この場合、前者の「心的法則は、……人間の心の面に働きかけ」るものであり、後者の「物的法則は、物の面に働きかける法則で、……たとえば、ニュートンの万有引力」の法則などのようなものである(40頁)と述べている。

このように、「私たち人間と自然とは、この二つの法則によって生かされているのであ」り、しかも、この「法則は、人間がこれを意識すると否とにかかわらず、絶えず私たちの上に働き掛けている」(40頁)と述べている。

そして、この宇宙の法則の具体例として、例えば、物的法則であると同時に心的法則にも相当する「諸行無常」ということがあり、「諸行無常とは、万物流転、生成発展ということなのであります。……人間も、この自然の理法に従い、日に日に新たな営みを続けていかなければなりません。常に時に従い、創意と工夫を新たにして、日一日と生成発展の道を進まなければならないのであります。そこから限りのない繁栄、平和、幸福が生み出されてくる」(23頁)と述べている。

すなわち、幸せになるためには、宇宙の法則の一つである諸行無常を生成発展と解して、日々創意と工夫をしながら生活することが、成功や幸せになるために必要であることを示している。

それでは、幸せな人生を送るために必要な「心の法則」とは、具体的には、どのようなものであろうか。