相川は必死だった。人生初めての団体競技優勝が自分にかかっているのだ。それはまさに団体競技でありながら茂木と相川の一騎打ちの様相を呈していた。試合開始直後は5連続スパイクを決められるなど苦戦が続き、2セットを先取されたときは勝ち目が皆無に思われたが、時間が経つにつれ一人アタッカーの茂木に疲れが見え始め、だんだんレシーブできるようになってきた。

形勢有利になってからシーソーゲームが繰り広げられ5セットマッチの2対2で迎えた最終セット、相川の心にある閃きが浮かんだ。その閃きに従って相川はそれまで温存していた秘密兵器を繰り出した。柔道仕込みのダイビングしての回転レシーブである。

素人のバレーボールゲームでダイビング回転レシーブが鮮やかに決まったのを見て場内にどよめきが起こった。気をよくした相川はダイビング回転レシーブを連発し、角田と小塚もそれにこたえるかのようにスパイクを決めた。そしてついに南奥戸小学校は逆転勝利をもぎ取った。

優勝の瞬間、観客席からなだれ込んだ南奥戸小応援団と選手たちは一丸となって誰彼となくハグし合った。この日ばかりは敵も味方もなかった。そう、この日ばかりは……。

南奥戸小学校という職場の主人公である教員はそのほとんどが日教組で占められていた。当時の東京都における日教組の組織率は驚異の8割超えで下町地域ほどその傾向が強かった。しかも中には隠れ共産党員が潜んでいて民主教育の啓発と称して事実上の政治活動を行っていた。

特に全科の担任を除く実技教科の教員は空き時間が多く、勤務時間中に機関誌の発行やオルグのチラシ作りに余念がなかった。最初は彼らの活動に無関心だった相川は、印刷費の執行額が異常に多いことに気づいてからは彼らと距離を取るようになった。そこに目を付けたのは、職制側である校長と教頭だった。

職員会議で孤立無援の彼らは事務職の相川に何かと相談を持ち掛けるようになった。一方、組合側は学校予算を担当する事務職の取り込みを職場目標のひとつにしていた。こうして相川は組合と管理職との板挟みとなり次第に学校職場の組合闘争に巻き込まれていった。

バレーボールの時はあれほど一丸となっていたにもかかわらず、組合側の攻撃的な言動で日常の職場の雰囲気は殺伐としていた。どちらにも与する気はなかったが、学校予算を違法な政治活動に使われるのには我慢がならなかった。

 

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