第一章 出逢い ~青い春~
四
『タイタニック』のラストで、優子は鼻をすすって泣き、ハンカチで頬の涙を拭きながら観ていた。隣りに座る天地は、そんな優子を愛おしく想った。
映画館を出て、二人は、イタリアンレストランに入った。もう夕食時だった。
「母に連絡しておきます」と言って、優子は横を向いて携帯電話をかけた。
「失礼しました」と言い、優子は携帯電話をバッグにしまった。店員が席に案内し、二人は向かい合って座った。天地がコース料理を注文した。
「ワインは飲まれますか?」
「ちょっとだけなら」と、優子は答えた。天地はグラスワイン二つも注文した。
「門限は何時ですか?」と、天地が聞いた。
「十時です。でも大丈夫です。天地先生と一緒だって言ったら、母がびっくりしていました。それに安心したみたいです」と、優子は微笑んだ。
「帰りは暗いから、家までお送りします」
「いいです。タクシーに乗りますから」
「いえ、送らせて下さい。一分でも長く、優子さんといたい」
そう言われ、優子は頬を赤らめた。
「ここまで一緒に歩いていて、思ったんですが、貴女はずっと僕の一歩後ろを歩かれていましたね。並んで歩けばいいのに。どうしてですか?」と、天地は聞いた。
「だって、恥ずかしくて……」と、優子は答えた。
「全く貴女は、何てしおらしい女性なんだ。優子さんみたいな女性は初めてです。僕まで恥ずかしくなって、戸惑うなぁ」と、天地は率直に言った。
「ごめんなさい」
「いえ、何も謝る事はないですよ。僕はただ、貴女みたいな女性に出逢えた事に感動しているんです」と言い、優子を見て、天地は微笑んだ。優子もはにかんで微笑んだ。
「映画、評判通り良かったですね」
「私、泣いちゃって恥ずかしいわ。お化粧もとれたでしょ。ごめんなさい」
「大丈夫。綺麗ですよ」と言って、天地は微笑んだ。優子はまた頬を赤らめた。
「でも、酷いわ。ジャックが死んで、ローズが生き残るなんて。私だったら、生きていけないわ」
と、優子は不服そうに言った。